「未来」である今と「今」であるあの時をツナグ物語 ~ 舞台劇「Wake Up, Girls! 青葉の軌跡」BDを見て

 先日、舞台劇「Wake Up, Girls! 青葉の軌跡」のBDが届いた。この舞台は今年の6月6日~10日に上演されており、私も2公演見に行っている。当時感想を書こうと思っていたものの、すぐに頭の整理がつかず、ひとまずゆっくり考えながら次の週末までにまとめるつもりでいたら、その週末を迎える直前、全てが吹き飛んでしまった。そう、6月15日の衝撃、突然のWUG解散発表である。

 あの時、WUGちゃんたちは翌週の解散発表を胸に秘めた上で演じていた。当時眺めたツイートの記憶では、I-1メンバーやその他の演者たちはそのことを知らなかったようだ。舞台の演出家などはどうだったのだろうか。ただ、WUGメンバー以外で直接この舞台に関わった人物としては、少なくともあの人だけは前もって知っていたのではと予想できる。脚本の待田堂子氏だ。彼女はWUGの解散を知った上でこの舞台の脚本を書いたのだろうと。

 実は公演を見た直後も、待田さんの観点で感想を書こうとは考えていた。あの時なりに考えていたことと、今も大枠は変わっていないのだが、しかし今だからこそ、待田さんがより強くWUGに寄り添う気持ちで脚本を書いていたものと思える。

『Wake Up,Girls!』は私にとって、はじめてのオリジナルアニメ。思い入れがあります。
今回の舞台は、初期テレビシリーズで、書き切れなかったことを詰め込みました。今年で結成5周年。彼女達も、それぞれに積み上げたものや思いがあると思います。私は今でも一緒に歩いているつもりです。
待田堂子

(舞台公式サイトより) 

 待田さんは初期テレビシリーズの脚本・シリーズ構成を担当し、またWUG声優オーディションの選考員の一人だった。原案・監督の山本寛氏、作曲の神前暁氏、そして待田さんが、声優ユニットWUGの7人を選抜した生みの親である。しかし彼らの中で、新章まで継続的に残っていた者はいない。神前氏はアニメ放送直前に病で長期休養に入り、楽曲面の世話を弟子の田中秀和氏に託してWUGから離れる(新章ではRGRに曲を提供しているが、WUG曲は田中氏や岡部啓一氏に任せている)。山本氏は、ワグナーによって賛否諸々あろうが、WUGというコンテンツに断絶を刻んで切り離された。

 待田さんは、理由は分からないが、2015年秋冬の続劇場版の時点でスタッフロールからその名前が消えていた。2017年1月に上演された前回舞台「Wake Up, Girls! 青葉の記録」の脚本を書くまで、WUGとの関わりは途絶えていたようだ。

 「私は今でも一緒に歩いているつもりです。」

 前回舞台でも、待田さんは初期シリーズの人として、そこまで3年間歩んできたWUGメンバーたちの思いを込めた原点を綴り、新章へ向けて彼女たちを送り出している。

 待田堂子 on Twitter: "私、WUG、大好きなんですよね〜。… "

 前回舞台当時のツイートを掘り出してみたのだが、コンテンツから離れていても、ずっとWUGちゃんたちを愛してくれていたのだ。

 そして今回の舞台。物語は初期テレビシリーズ5話~7話を基本的に再現するものだが、それを新章を終えたWUGが振り返る形をとっている。冒頭とエンディングに、WUG7人が言葉を寄せ合って紡いだ歌「Polaris」。

 ”キラキラキラ輝く 未来と今ツナグTwinkle star”

 待田さんは、「未来」である今と「今」であるあの時をツナグ物語を描こうとしたのではないだろうか。

 物語序盤、Twinkleから新曲「16歳のアガペー」をもらい、初ライブに向けレッスンに励むものの、なかなか足並みが揃わない。ライブ同日にI-1 Clubの仙台公演がかち合ったことにも焦りが隠せない。そして散々な結果に終わった初ライブ。心がすれ違う7人。特に、かつてI-1 Clubでセンターを務めていた真夢が今WUGにいることに、その真意を計れずわだかまりを募らせる佳乃。

 ”街明かり消えた夜
  誰を頼ればいいの?
  不安とかイライラが闇を作り出す”

 アニメを放送していた当時、もしかしたら彼女たちにもこんな思いがあったのかもしれない。特にまだ熊本から上京する前のよっぴーは、他のメンバーから遅れをとっている自分に焦りを感じていたことを隠していない。「ハイパーリンク」と謳ってリアルWUGのエピソードなどを山本監督とともにアニメの脚本へ反映させていた待田さんだが、その脚本を上塗りする葛藤がその後のリアルなWUGにはきっとあった。仲良しに見えてまだお互い手探りだったあの頃。その思いが「Polaris」の歌詞に滑り込んでおり、だから今回の舞台では、そのすれ違う様がアニメの時以上に強調されていたように感じられた。

 菜々美「なんだかわからないけど」
 藍里「何かがズレてて」
 佳乃「私達、きっと」
 真夢「すれ違ってる」

 突然WUGのレッスンを買って出たI-1 Clubの音楽プロデューサー早坂によって、WUGの脱退を突きつけれる藍里。そしてそのことを知らされ、藍里をどうするか悩み、焦り、揉める残りのメンバーたち。そこでぶつかって吐き出して、でも7人でWUGだ、藍里は切り捨てないという結論で、彼女たちは走り出す。

 ここからの、特によっぴーの演技は迫真だった。演出家の萩原氏からは「毎公演こんなに感情が変わるとは…」と言われていたそうだが、それだけ一つには収まらない感情がよっぴーの中にあったのだろう。アニメのアフレコの時、山本監督から散々泣かされて演じたものとはおそらく全く違う、今のよっぴーの中から溢れ出る感情があった。ナマモノの舞台だからこそ、そこに監督のOKはない。毎回違う全てが本物だったに違いない。

 エピローグ。「Polaris」の衣装を来た今の7人が再び現れ、振り返る。

 菜々美「WUGらしさって何だろう?それは私達がずっと考えてきたことだ」
 未夕「今だから、なんとなくわかったことがある……」
 夏夜「それは……もしかしたら……私達が頑張っている姿を見た人が……」
 実波「自分たちも頑張ろうって思ってくれること……」
 藍里「みんながそんな風に感じてくれることが、やがて私達に戻ってきて……」
 佳乃「そして、また、私達も七人で頑張っていこうと思えることなのかもしれない……」

 そして再び流れる「Polaris」のメロディー。

 ”ひと粒の瞬きがボクを導いてく
  ココロから憧れた世界
  満天の星空になる日まで”

 先日、ANIMAX MUSIX横浜アリーナで見た白く満天の星空。すれ違い、ぶつかり合い、涙したあの時の「今」があるから、今という「未来」に描けたあの景色だ。

 今回の舞台脚本のもう一つの肝は、I-1 Clubの岩崎志保の描き方だ。アニメ初期シリーズの志保は、真夢に対し厳しい顔で「負けない」と呟いていた。それに対しこの舞台では、面倒見の良い先輩として後輩を相手に、真夢は「勝ちたい相手」だと語る。これは待田さんが関わっていなかった続劇場版と新章に繋がる志保の側面を描いた改変だ。

 だから、エンディングの「Polaris」で、新章最終回と同じようにWUGとI-1 Clubが一緒に手を降って歌える世界が生まれたと言える。まさにWUGちゃんたちが「ココロから憧れた世界」なのではないだろうか。

 ”キラキラlucky lucky 奇跡が
  永遠に続くならば
  振り返らず進むだけでいい
  だって君もボクを照らすPolaris

 もうすぐ解散を迎えるWUG。その発表を胸に秘めて演じる舞台のために、WUGちゃんたちが自分たちの思いを込めて書いた歌に寄り添って、待田さんはあの時と今をツナグ脚本を書いたのだろう。そして「振り返らず進むだけでいい」、未来と今はツナガっているのだからと、彼女たちを未来へと送り出す。

 待田さんにとっても、WUGは自分を照らすPolarisなんだろうな。