存在だけで 美しいもの ー Wake Up, Girls! FINAL TOUR - HOME - ~ PART Ⅲ KADODE~ 熊本公演

※ネタバレ含みます

  12月22日に開催されたPART II最終の横須賀公演はチケットがなく、私は参加できなかったのだが、そこでは3月8日さいたまスーパーアリーナSSA)でのラストステージが発表され、遂にゴールへの明確なカウントダウンが始まった。

 それにしてもSSAとは……

 ファンとしては、あのモンスターホールを満天の星空にするため、「小劇団のノルマ的なノリ」で、興味のありそうな知り合いに声をかけまくることになるわけで、まあなんとか数人連れていけそうだ。5年前の2月、ワンフェスのステージをニコ生で見て、「作品終了と同時にこの子たちを終わらせてはいけない。彼女たち自身や運営だけじゃない。ファンもまた試されてるんだ!」などと思って応援し始めたのだが、ホント、最後まで試されまくりだよw

 そんな中、年が明けて1月5日、熊本にてファイナルツアーPart IIIが幕を開けた。

 Part I、Part IIでは、それまでの印象を覆すような演出で、まだまだ進化する彼女たちを見せつけてくれた。と同時に、「HOME」というツアータイトルにふさわしく、岩手公演のように、故郷とのつながりを大事にした心打つ内容のステージもあった。

 そして今回の熊本公演だが、まゆしぃがブログで予告していたように、「原点回帰」という側面が打ち出されてた。個人的には、4thツアーのコンセプトを踏襲していると感じている。

 このブログでは完全に筆が止まっていて、4thツアーの感想を結局書いてなかったのだけど、ファイナルツアー以前の全てのライブの中で、実は4thの構成が私は一番好きだ。アニメ新章を控え、「TUNAGO」というテーマをしっかりと立てて、作品を旧作から新章へつなぐこと、そしてワグナーとのつながりが非常に強く意識されていた。

 ファイナルツアーでは、Part Iからワグナーとのつながりを強く打ち出していたが、Part IIIでは、WUGの様々な原点から、未来に向けて扉を開くためのつながりがとても感じられたのである。特に会場企画コーナー前のセトリは、昼夜曲の入れ替えがありながらも、2曲ずつセットで過去のそれぞれの時点を振り返る形を取り、ワグナーたちは各々がWUGにはまったきっかけの時期を思い返すことになったのではないだろうか。

 そして企画コーナー(後述)をはさみ、「16歳のアガペー」で推しへの愛を叫んだあと、新曲「言葉の結晶」が披露される。

 言葉の結晶 / Wake Up, Girls! - YouTube

 実に難しい曲なのだが、彼女たちが培ってきた実力と、ここに来てまた新たな可能性が存分に示されたといってよい。ただ、広川恵一さんが作ったこの難易度の高い曲調につい関心を奪われてしまうものの、ここでは只野菜摘さんが今の彼女たちのために書いた詞から思いを巡らせてみたい。会場で聞きコピできるわけではないので、上記YouTubeのワンコーラス分しか分からないが、そこにはもどかしさや拙さに苦しむ中から、「存在だけで美しいもの」を伝えようとする思いが描かれる。

 どこか、この日の主役、青山吉能に重なるものを感じないだろうか。

 もちろん只野さんはこの日のよっぴーのためだけにこの詞を書いたわけではなく、メンバー一人ひとり、そしてユニットWUGとしても、この歌詞から想起されるものはある。しかしYouTubeのワンコーラスを聞いて熊本公演を振り返ると、やはりそこにいるのはあの時のよっぴーなのだ。

 企画コーナーに移るとき、よっぴーの他にまゆしぃとななみんがステージに残る。結成からしばらく飛行機で東京に通っていた西日本組だ。笑いを交えながら当時の思い出を語り合ったあと、3人が披露したのは後輩ユニットRun Girls,Run!の「カケル×カケル」。

 “大好きだけが先走りしていた故郷の日々に別れを告げる
  そうだ だって私は一歩早くに子供時代とさよならした”

 まだ高校生だった3人が、毎週末飛行機に乗って東京へ向かい、全力で走っていたあの頃は、ランガちゃんたちのこのデビュー曲とも重なり合う。

 だが、まゆしぃとななみんが舞台から下がると、1学年年下のよっぴーが一人残される。故郷の日々に別れを告げるはずなのに、自分だけが故郷・熊本から離れられない。

 「この街が大嫌いだった」

 夜公演、ワグナーのために書いてきたという手紙で、彼女はそう告白する。2017年のソロイベでも、この頃のもどかしい自分を表現していた。彼女にはそこに逃れられない一つの原点があるからだ。

 ”あなたに 誰かに 聞いてほしいことがある
  思いの言葉の結晶” 「言葉の結晶」より

 彼女が読み上げた手紙は、まさに「思いの言葉の結晶」だ。一人故郷に残され、他のメンバーたちから遅れを取っていくことへの苛立ち。「私はなぜ熊本なんてところで生まれ育ってしまったのか」という理不尽な怒りを母にぶつけ、泣かせてしまったこと。そんな自分の弱さをもさらけ出す言葉は、「傷を削って透明に」なっていく。

 ”存在だけで 美しいもの”

 上京し、東京の雑踏に揉まれながら活動していく中で、やがて自分を生み育んでくれた故郷は、いつでも優しく、大切な存在となっていく。

 また、彼女にとって故郷とは熊本だけでなく、Wake Up, Girls!も「HOME」(故郷)であると語る。メンバーが、スタッフが、ワグナーが、そして演じたキャラクターも、彼女にとって「HOME」となる。しかしそれはまた、ワグナー一人ひとりにとっても、WUGを通じて出会ったもの全てが、共に分かち合う「HOME」になるのだ。

 手紙を読み終え、アカペラで歌い始めた歌は「わたしの樹」。2017年ソロイベで披露されたこの曲は、この日と同じく自分の弱さをさらけ出した上で、一つでも大切に願いを叶えていこうという、よっぴーの思いが込められている。これも只野さんによる作詞だ。

 歌い始めてすぐ、よっぴーは涙で声を詰まらせるが、しかし次のフレーズではしっかり声を取り戻す。そして最後のサビでは、残るメンバー6人がステージ上段に現れ、7人で一緒に力強く歌い上げた。東京で一人で歌った2年前のソロイベのときとはまた違う、故郷で自分をさらけ出して、そして仲間たちと一緒に歌う「わたしの樹」は、どこまでも透明で美しい。

 一人ではない今、よっぴー、あなたはその存在だけで、美しいです。

 7人が一旦ステージから下がると、スクリーンにメンバー一人ひとりからよっぴーへのメッセージが映し出される。およそ強いリーダーシップで引っ張っていくリーダーではなく、「へっぽこリーダー」扱いされていたよっぴーだけど、自分を隠さず素直に出せる彼女らしさが、結果としてメンバーみんなを安心させ、一つにまとめる存在になっていたのだなと改めて感じさせてくれる、愛のある言葉たちだった。

 そしてPart IIIの新衣装に着替えて現れたWUGちゃんたちが披露したのは、「HIGAWARI PRINCESS PRINCESS Yoshino Ver.」だ。一応ここまでが熊本限定企画コーナーってことなのだろう。いつもの「素敵なステッキ」ではなく、みんなパラソルを持ち、その中で一人ピンクのパラソルを持つプリンセスよっぴー。やはり彼女の満面の笑顔は可愛くて最高だ。

 その後「言葉の結晶」のあと2曲続き、本編の締めに歌われたのは「TUNAGO」。やはりこの点も4thツアーと同じで、WUGの、そしてよっぴーの原点から門出の先へとつないでいくことが意識された構成なんだなと実感した。

 

 最後に「HOME」「故郷」というものについて少し語りたい。

 先月の岩手公演でかやたんは、愛する故郷をメンバーやワグナーに感じてもらおうというステージを作った。そこでまさに今回の主役よっぴーが、岩手に故郷を感じたと語っていた。一方熊本公演では、最年長なのに普段はマスコット的存在のかやたんが、よっぴーに対し、お姉さんのような優しさで接していたように思う。公演後のブログにもそんな優しさが溢れていた。

 このファイナルツアーでは、メンバーそれぞれの故郷を巡り、またそれ以外に街であっても、そこにつながる人たち(メンバー、スタッフ、ワグナー一人ひとり)にとって「HOME」となっていくことが、ある種の「目標」になっていると感じている。

 ただ単に観光として訪れ、有名な建物や景色を眺め、写真に撮って帰るだけでは、その土地が「HOME」と呼べるものにはならないだろう。大好きな誰かが生まれ育った大切な故郷であること。仲間たちと共に楽しい時間を分かち合った場所であること。その一つ一つの場所に一人ひとりがつながっていることへの眼差しが、その土地を「HOME」という存在にしていくのだと思う。

 WUGのライブ会場に行くと、最近中東系の顔をした数人のグループを見かける。台湾人ワグナーは以前から結構いて、私も何人かと楽しく話をさせてもらったことがある。また熊本公演後に流れてきたツイートでは、よっぴーも訪れたという店で行われていたオフ会に韓国人ワグナーも参加していたようだ。彼らにとっても、よっぴーという存在を通じて熊本が「HOME」となり、会場となった(なる)それ以外の街も「HOME」となるのだろう。

 少しポレミカルな話に広げるなら、関東だ関西だとか、国とか民族といった看板だけで人を括り、そこにつながる一人ひとりへの眼差しが欠けてしまうことで、お互い出来るはずの協調や妥協を出来なくする状況が生み出されてしまうのではないかと思っている。私もかつて日本を離れ、もう戻ることはないかもしれないと覚悟した時期もあった。だからこそ、自分が生まれ育った日本という国や東京という街に根を持つ思いは人一倍意識してきたし、出会った様々な国や地域の人たちの故郷への眼差しも失わないように努めてきたつもりだ。

 WUGのツアーをそんな話にまで広げるのはやりすぎかもしれないが、ただそこに希望を感じることくらいはよいのではないだろうか。

 私の次の参加は徳島、そして仙台となる。ななみん、あいちゃん、そしてWUGの故郷に「HOME」を見出しながら、最後の門出へと向かいたいと思う。