WUG新章で実らせた旧章の種 ー 「男鹿なまはげーず」からの一考察

 突然今更だが、アニメWUG新章についてちょっと考察してみようと思う。ただ、作品全体に対する見解は、既に昨年1月の最終話放送のあとに書いており、その内容について今も特に変更点はない。 

 今回は一つの切り口に絞った作品解釈の試みだ。具体的には、物語上の「男鹿なまはげーず」の存在意義についてである。上の記事内で、前作には「それより他に描くべきところがあっただろ」というツッコミどころがあったと書いたが、もともと旧章が終わった時点で思った「それより他」の「それ」とは、男鹿なまはげーずのことであった。その辺から書いていこうと思う。
※ちなみに「他に描くべきところ」については、自ずと旧章批判になってしまうので、話が散漫になるためここでは触れない。

◆旧章TVシリーズ第10話

 旧章TVシリーズ第10話というのは、続劇場版まで含めた旧章を大きく二つに分割した場合の、第2部第1話という捉え方が出来る。

 劇場版「七人のアイドル」から第9話までは、まだ互いの気心が分からず手探り状態だったWUG7人が、様々な試練を通じてぶつかり合いながら認め合っていく話だ。それゆえ暗く重い展開が多く、また片山実波や菊間夏夜の背景に震災の影も仄めかして、東北の苦難ともオーバーラップさせる。そして気仙沼という震災の傷跡がダイレクトに残る街で、島田真夢が一人で抱え込んでいた過去をみんなに打ち明けることによって、7人がようやく心から互いを認め合い、アイドルの祭典へ向けて心を一つにする。

 第10話は結束した7人が再スタートする回であり、これ以後続劇場版後篇「Beyond the Bottom」(以後「BtB」)まで、試練に苦しむ場面はあっても、メンバー同士が相互不信でもめ合うようなことはなく、全体的に思考がポジティブで、物語が明るくなっている。

 それを最初に強調するギミックとしてこの第10話で初登場したのが、男鹿なまはげーずだ。アイドルと呼ぶには如何にもイロモノなキャラ設定で、夜道で突然現れ、七瀬佳乃と真夢に宣戦布告したコミカルなシーンは、第9話まで最も心を許し合えていなかった二人が、既に頼り頼られる関係になっていることを視聴者に理解させることが目的だったと言ってよい。つまりこの場面は別の演出にも差し替え可能であり、男鹿なまはげーずというキャラクターに必然性はなかった。

 しかし、第10話の最後にWUGがアイドルの祭典東北予選を優勝した場面で、男鹿なまはげーずがWUGにエールを送ることによって、彼女たちに別の存在意義が付与される。それは、WUGにバトンを託す東北のアイドルたち全員の代表としての意味だ。また「わたすら明日からまたバイトの毎日さ戻るばって」という台詞から、苦労の日々の中でも前向きに元気に生きようとする東北の人々の姿も象徴される。そのように男鹿なまはげーずによって、WUGは7人が結束して再スタートしたその時から、7人だけではない、東北のアイドルたちと繋がった存在となる。今振り返れば、「Wake Up, Idols」という全国のアイドルと繋がっていった新章終盤の活動が生まれる最初の種を、ここに見出すことが出来るだろう。

 ただ、その後TVシリーズでは、佳乃の怪我というトラブルを抱えてアイドルの祭典本戦に向かうWUG7人の話に焦点が絞られたため、本戦のステージに立った彼女たちから東北代表という観点が薄れてしまったことは否めない。東北との関係性を感じ取るためには、第9話までに描かれてきたメンバー個々人の背景にまで改めて思いを致す必要があり、相対的に男鹿なまはげーずとのエピソードの意味は小さくなる。

◆BtB

 次に男鹿なまはげーずが登場するのがBtBだ。WUGは、続劇場版前篇「青春の影」で一度東京に進出したものの、東京の業界ルールに馴染めず、仙台に戻って再度アイドルの祭典を目指すことになる。BtBではまず仙台での活動を描き、そこが拠点であることを明確に示した上で、バンに乗っての全国行脚に出かける。その出発点が秋田の男鹿なまはげーずとの合同ライブだ。ここで男鹿なまはげーずは、イロモノという意味合いがぐっと後退し、WUGと切磋琢磨し合える良きライバルになっている。

 また全国各地で街頭ライブを繰り返して地道に認知度を高める活動は、「Wake Up, Idols」と同じベクトルを描いており、ここにも新章の種が蒔かれていることが読み取れる。

 ただ、二番目の点を強調すると、男鹿なまはげーずの話がなくても、街頭ライブを通じて東北から全国へという筋立ては作れるため、彼女たちの存在は不可欠ではなかった。明らかに尺の都合とはいえ、東北地区予選で男鹿なまはげーずはWUGと一瞬笑顔を交わすのみで、次の瞬間にWUGは予選を突破し、その後登場シーンはない。

 物語の後半は、楽曲「Beyond the Bottom」の作成、久海菜々美のエピソードを駆け足で消化し、WUG7人の結束を再度確かめ合った上で、アイドルの祭典優勝というピリオドを打つ。この時WUGのライバルはI-1 Clubであり、岩崎志保率いるネクストストームだ。結局旧章終幕時点で男鹿なまはげーずの存在意義を高く見積もることは難しく、どこか代替可能な存在感で終わってしまった。

 一方、I-1センターから都落ちして博多に移った志保は、駆け出しの後輩たちとともに一から再出発することで、真夢と同じ立場で挑み合う気持ちを手に入れた。ここに、男鹿なまはげーずの僅かなシーンで描かれていたものが、メインキャラの一人である志保にも移植されているのである。WUGと男鹿なまはげーずの関係が先に描かれていたから、WUG、あるいは真夢が志保に与える影響の変化を読み取りやすくさせたとも言えるだろう。もちろん、過大評価であることは否定しないが。

◆漫画「エターナル・センシズ」

 この漫画は公式原作・監修による、BtBと新章の間の時期を描く物語だ。WUGはアイドルの祭典に優勝したものの、これはいわばライブパフォーマンスに特化した対戦であった。バラエティー等での力不足は前回東京進出で痛感しており、この漫画では、まずは仙台でしっかり地保を固め、確実にステップアップする方針が描かれる。

 男鹿なまはげーずは、WUGがまたアイドルの祭典に出場すべきか悩んでいる時に登場する。宣戦布告に来たといいながらも、WUGが決めかねていることに理解を示しながら、「おめがんだ見てると元気が出てぐす」「不思議とやる気になるす」と素直に話す。この直後に男鹿なまはげーずの運営状況が芳しくないことが示唆されるが、そんな中で彼女たちにとってWUGの存在が頑張るモチベーションとなっていると描かれているのだ。そしてこの漫画の最終話、地元ライブを終えたWUGメンバーたちの会話の中に、以下のような台詞がある。

「昔の人は夜の間北極星を頼りに旅をしたんだって」 
「ふうん…北極星か…」
「九州や秋田からも見えてるかな」

  九州は志保のネクストストーム、秋田は男鹿なまはげーずを指しているのは明らかだ。「エターナル・センシズ」はアニメ新章放映前の制作時期に並行してWEB公開されていたのだが、既に新章の結論を先取りしていた格好だ。「Polaris」の歌詞が書かれたのが、2017年6月頃と言われているので、漫画の終盤では歌詞も反映されていたわけだ。つまり男鹿なまはげーずは、「Polaris」というキーワードが生まれてすぐに、作品内でそれと直結するキャラクターとなった。旧章ではストーリー上代替可能な危うい存在だったものが、その中でささやかに蒔いた種によって、新章の主題を象徴する存在へと昇格するのである。

◆新章第11話

 男鹿なまはげーずの新章での登場は第11話(作品本編としては10話目)だが、第1話で解散したことが大田たちによって語られている。旧章のような存在感だと、アイドル不況という状況設定を説明するための一具体例として消化されてしまう可能性もあっただろう。しかしこの第1話での言及は、旧章で蒔かれた種を終盤で実らせるための伏線だった。

 第11話、ツアーチケットの売上が伸び悩んでいたため、WUGメンバーはそれぞれにゲリラライブを敢行する。そんな中、岡本未夕が、訪れたメイド喫茶で再始動した男鹿なまはげーずのライブチラシを発見した。未夕は夏夜とともに男鹿なまはげーずのライブに行くと、頑張ってるWUGを見ていてまた歌いたくなった、「おめたつのお陰」だと言われるのである。

 そこで未夕は自分のインターネット番組に、男鹿なまはげーずをゲストに呼ぶ。しかも次のライブはWUGと同じクリスマスで、全国でも多くのアイドルがライブをするから、アイドル尽くしの一日にしようと盛り上げるのである。バッティングすることを恐れていた旧章の頃とは大きく異なり、彼女は自信をもって全国のアイドルへも呼びかけていこうとするのだ。そして彼女がオファーした先に星のシールを貼り付けた日本地図をメンバーが見て、星をテーマにした「Polaris」という歌が生まれるのである。更に第12話で、アイドルがアイドルを応援する「Wake Up, Idols」へと発展するのだ。

 男鹿なまはげーずは、7人だけでなく、もっと多くの人たちと与え合いお互い幸せになれると、WUGメンバーたちに改めて気づかせるきっかけとなった。それが互いを照らしてつながり、みちびき、輝く「Polaris」という歌に結実するのである。

◆作品解釈のまとめ

 「Polaris」のサビ前は、不安や傷ついた心と東北の震災を示唆する重い言葉が綴られている。作品と結びつけて解釈するなら、ここには旧章第9話までの思いが込められている。アニメ作品のWUGが他のアイドルアニメと一線を画す特徴は、ここにあると言ってよい。そこには露悪的なほどに汚い世の中の側面も描かれ、まだお互い心を許し合える関係になっていないアイドルたちが悩み苦しむ姿に、単に華やかなだけでないリアリティが映し出されていた。

 しかし、理想のない現実主義は、単なる場当たり主義にすぎない。そこで、不安や苦しい現実からも、お互いが本音で理解し合い、心を一つにすれば、アイドルとして胸を張って人々に幸せを届けていくことが出来るという理想が描かれた。それが旧章第10話からの物語である。

 その過程で、結束したWUGがWUG以外で最初に対等に認め合い高め合う存在となったのが、男鹿なまはげーずであった。作中I-1 Clubというトップアイドルグループが対置されていたため、旧章内の男鹿なまはげーずは、結局一過性のエピソードにすぎないキャラクターで終わってしまった感が強かった。しかし僅かでも彼女たちの存在意義を汲み取ろうとしたとき、新章へと繋がる種がそこにあったことに自ずと気づくことになる。

 監督が代わっての新章制作が発表されたとき、私は旧章を「古典」としてどれだけしっかり解釈し、次へ進む物語に出来るかが重要だと考えていた。結果として新章制作陣は、実にしっかり旧章を咀嚼し、男鹿なまはげーずをきっかけに、東北から全国のアイドルたちと照らし照らされる関係へと実らせる「Polaris」へと、作品を仕上げることが出来たと言えるだろう。

◆「Polaris」作詞者「Wake Up, Girls!」と新章

 最後に作詞者であるリアルWUGとの関係について簡単に。

 作品WUGとリアル声優ユニットWUGは切っても切れない関係だ。新章の結論といえる歌の作詞を彼女たちに任せた時点で、新章制作陣は彼女たちのこれまでの活動を通じた思いを作品に込めようとしていたと考えていい。

 旧章以後、個々の活動を通じてファンを増やし、同時に、見ていると誰もが幸せの笑みを浮かべてしまうほど仲の良さを深めてきたWUGちゃんたちは、旧章第10話以降の段階にあったと言っていい。先輩ユニットi☆Risをはじめ、様々な声優ユニットやアイドルたちとも認め合い、刺激し合える関係を築いていた彼女たちが、周りで支えるスタッフたちや応援するワグナーたちとの関係性に思いを致したとき、自然と「Polaris」の歌詞が生み出されていったのだろう。

 新章はそんなWUGちゃんたちの思いを活かすため、旧章を際立たせる「現実」を描いた特徴より、旧章が目指した「理想」をより発展させる明るいストーリーになったと考えていいのではないだろうか。