有間カオル『太陽のあくび』

太陽のあくび (メディアワークス文庫)

太陽のあくび (メディアワークス文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
頼子が残りの房を口に放り込む。この果実の味を、彼女の顔が語っている。頼子は食べているときが一番かわいい。「まだあるけん。食べる?」愛媛の小さな村で開発された新種の夏ミカンが通販番組で販売されることになり、少年部リーダー風間陽介は父と一緒に東京へ赴くが、生放送は失敗。在庫を抱えることに。東京のテレビ局と、愛媛の小さな村で夏ミカンを中心に繰り広げられる、彼らの物語。第16回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞”受賞作。

 ライトノベル電撃文庫を出しているアスキー・メディアワークスが、一般向け文庫シリーズとして昨年12月に創刊したメディアワークス文庫。本書はその第一陣の中の1冊。ティーネイジャー向けラノベはちょっと恥ずかしくて手に取れないが、これくらいなら大人でも抵抗ないよね、という作品を揃えるのが主旨のシリーズだから、本書も実に手軽で読み易い青春ストーリーである。プロットは、冒頭の失敗から逡巡、葛藤、試行錯誤を経て成功へと向かうという、謂わば定番ともいえるもの。つまり読み手としては最初から予定調和な結論を予測した上で読み進むことになる。もちろんそれ自体はありなのだが、読み手にとっては、その予定調和な結論に至るまでのプロセスを楽しめるかどうかが作品の評価に繋がるわけだ。

 而してその評価はというと、まあそれなりに楽しめたかなといったところ。みかん農家の少年たちと、東京のショッピングTVの女性バイヤーの双方でそれぞれの起死回生のストーリーが綴られ、それが最後に重なり合っていくプロセスは、なかなか飽きさせない面白さがあった。かといって特別インパクトがあるわけではなく、飽くまで定石の範囲内だといえるだろう。

 難を言えば、主人公の少年「陽介」に、主人公としての芯が感じられなかったことだ(「true tears」でも同じようなこと書いたなぁ)。みかん畑を担う村の少年部のリーダーでありながら、リーダーらしいところは結局最後まで見られず、いろいろ悩んだりするものの、自分の意思できっちり決断するような場面がなかったのは、なんとも消化不良であった。それでも「true tears」のように周りの人物たちが引き立ってくればまだよいのだが、その点でも少し力不足だったかなと思う。

 一方この作品の魅力は、みかんを育てた愛媛の太陽と海と緑の光景だろう。活字を追いながらその原色の景色が目に浮かび、一度愛媛のみかん畑に行ってみたい気分になった。映画にしたら結構いいんじゃないだろうか。できれば無名の新人を使って小慣れていない素朴さを出しつつ、愛媛の原色の風景を大画面に目一杯映し出したら、清々しく、気楽に楽しめる映画に仕上がるのではないかと思う。