Wake Up, Girls! 新章 ― 第1話「私たち、Wake Up, Girls!でーす!」

内容(公式サイト 各話あらすじより)
「アイドルの祭典」で一度は国民的アイドルグループ「I-1Club」を下して
優勝した「Wake Up, Girls!」だが、未だ地道な活動を余儀なくされていた。
丹下はWUGのさらなる飛躍を目指し、松田に全国メディアへのプロモーションを命じる。

 2014年1月の劇場版、1〜3月のTVシリーズ、及び2015年秋の続劇場版前後篇にて一つの作品を完結させたアニメ「Wake Up, Girls!」が、約2年ぶりに「新章」という名で帰ってきた。

 決してスムーズに予定されていた続編ではない。前作はそもそもヒットしたと言えるほどのものではなかった。いろいろな意味で、お世辞にも出来がよいとは言えない作品だった。私も過去にTVシリーズについて、かなり厳しく書いている("Wake Up, Girls!"というアイドルの物語 − 単独イベント「イベント、やらせてください!」を終えて振り返る)。もちろんこれを書いた後に続劇場版を見、更に時間を経ていることで、良し悪し諸々、私の中の評価も多少は変わっている。しかし両手を挙げて「この作品は素晴らしい」と賛辞を送れないのは、やはり今も変わらない。一言で言えば、いろいろと「もったいない」作品だったということだ。

 それでも新章として続編が作成されるに至ったのは、言うまでもなく、作中のアイドル「Wake Up, Girls!」を演じたリアル声優ユニットWake Up, Girls!」の力によるものだ。彼女たちが、前作が終わったあともキャラクターたちを担い、リアルアイドルとして活躍してきたことで、作品としての「Wake Up, Girls!」を再び掴み取ったのである。

 しかし、監督の交代、キャラクターデザインの一新で、前作に思い入れの深いファンからは批判的な目を向けられる中での新章スタートだ。リアルWUGのメンバーも、ファンの間に不安があるのは当然と、折に触れて認めている。しかしそれでも見てほしい、キャラクターたちはみんなの知っている彼女たちのままだと訴えていた。

 そうなのだ。私は確かに前作の作りそのものには批判的だったが、それでも作品を否定できない気持ちにあったのは、7人のキャラクターたちがとても等身大で、リアルWUGのそれぞれと並び寄り添いながら存在していたからなのだ。私はリアルWUG7人のファンである。と同時に、アニメWUGの7人も好きで、彼女たちのその後も見てみたいと思っていたのである。

 因みに監督交代についてはあれこれ思うところはあるが、何かと面倒くさくなるので、深くは触れない。ただ一点だけ言及すると、前作は監督自身の半生に基づいた思いが反映されていたのに対し、ファンクラブ会報誌にあった新章の監督のインタビューを読むと、捉えようによっては、作品に対する彼のスタンスは、とても他人事なのだ。作品に対する個人的な思い入れが、ほとんど感じられないのである。ただそれは、彼がとことん職人に徹しているということでもある。

 夏の4thライブツアーでは、途中の衣装替えの間に、前作のシーンをまとめた映像が流れていた。それはまるで、旧キャラデザの7人へ別れを告げるような演出だった。人によってはそれを、前作を切り捨てる儀式のように捉えたかもしれない。しかしあのツアーのテーマは「つなご(TUNAGO)」である。ツアーの構成については、WUGメンバーも深く関わり、一杯議論したと話していた。つまりあれは、決して切り捨ての儀式なんかではない。新たな出発にあたり、「あなたたち(旧キャラデザ)を決して忘れたりしない。ちゃんとあなたたちの思いもつなげていくよ。」という決意を表す演出だったと私は受け止めている。

 前作は前監督個人の思いに基いて作られていたが、しかしそれを越えて、当時新人だったリアルWUG7人とともに、アニメWUG7人のキャラクターも、独り歩きを始めていたといえるだろう。とすれば新章は、彼女たちに対しとことん客観的になれる、職人のような監督でよいのではないだろうか。音楽担当のMONACAもまた、徹底した職人集団だ。彼らは職人に徹しているからこそ、作品に対して適切で感動的な曲を作ることが出来るのだ。ツアーの映像を見、新章監督のインタビュー記事を読んで、私の中では不安よりも期待のほうが大きくなっていた。

 而して迎えた新章第1話。すっかり前置きのほうが長くなってしまったが、率直な感想を述べていこう。

 まず新しいキャラデザについては、個人的には大きな違和感なく受け入れられた。いざ動き出し、声が付けば、原案としてのデザインが同じであれば、それほど抵抗なく入ってくるものだ。

 次にストーリーだが、これも導入としての第1話なら、取り敢えずこんなものだろうという感想。一度はアイドルの祭典に優勝したものの、そのまま全国区のトップアイドルに駆け上がれるほど業界は甘くなく、基本的にまだ仙台で地道な活動をしているというのは、序盤設定としては違和感ない。久しぶりに出演するという全国放送の歌番組で歌った曲も、初期代表作で、一度東京進出した際にメジャーレーベルから出していた「7 Girls War」だ。いまだ一般的にはそれが最も知名度が高いというわけで、彼女たちが一つのヒット曲を歌い続けている演歌歌手と近しい状況だというのが読み取れる。

 とはいえ、地元仙台では冠番組も持ち、前作と比べてメンバー同士の仲も安定感が出ている。夏夜と未夕は、前作ではツッコミとボケコンビではあったものの、二人でふざけあって遊ぶというシーンはなかった。しかし今回は実波も加わった三人で投稿動画にアテレコして遊んでおり、メンバー間の距離が縮まったんだなと実感させられる。また藍里が失敗して落ち込んでいるときも、ちゃんと注意しつつもみんなで励まし、菜々美が「ま、それならいいんじゃない。結果オーライってことで。」と笑顔で言っているところなど、随分成長したなと思わせるシーンだった。個人的にはリアルWUGをずっと見続けてきて、彼女たちの仲や信頼関係が年々深まっていることを実感していたので、キャラクターたちの変化もまた、違和感なく受け入れられた。

 あと、I-1 Clubのセンター萌歌がWUGに対して冷たく、敵対心を持っていることも、自分がセンターになって最初のアイドルの祭典で負けていることを思えば、人一倍ライバル心を抱いていたとしても不思議ではない。そういった人間関係の構図を、ざっと分かりやすく描いていたという意味で、ストーリーとして特別なインパクトはないものの、前作との繋ぎに違和感はなく、導入の説明として無難な第1話だったといえるだろう。

 前作では散々叩かれた作画については、ところどころカロリー抑えた簡略さはあるものの(新幹線のシーンは笑ったが)、特にバランスが崩れたような場面はなく、一先ず及第点ってところではないだろうか。今後もこの調子で適度に手抜きはしつつ、人物描写は最後まで上手くやっていってほしいものだ。

 そして最後にライブシーンについて。前作は手書きにこだわったものの、制作スケジュールが破綻していたためか、テレビ放映時の第10話など目も当てられない惨状だった(あのときの絵コンテが今作の監督で、本人にも思うところはあるかもしれないが)。しかし新章では昨今のアイドルアニメに倣いフルCGに切り替え、動きもリアルWUG自身のダンスをモーションキャプチャーしたため、それ自体はとてもリアルに出来ている。表情がCGで多少変わってしまうのは、技術的に諦めざるをえない範囲だろう。しかしCGの長所をやたら活かそうとしたためか、とにかくカメラがぐるんぐるん動きすぎだ。結果として一人ひとりの動きが掴みづらくなっている。リアルWUGのライブを何度も見てきた立場からすると、折角モーションキャプチャーしたのだから、それぞれのクセが発見できるような見せ方をしてくれたらよかった。もちろんアングルやカットはいろいろ切り替えてくれていいのだが、手足の動きや表情、メンバー同士のアイコンタクトなどが素人目にも「おっ」と気づくような演出だったら嬉しいなと。初回だけにインパクトつけた演出にしたのかもしれないが、今後はもうちょっと落ち着いたものにしてほしいものだ。

 本格的なストーリー展開は次回から始まるということで、少しの不安を持ちつつ期待して待ちたい。