機能し始めた「ホーム」 Wake Up, Girls! 新章 ― 第3話「ポニーテールは本体です」

内容(公式サイト 各話あらすじより
食べっぷりが評価された実波と夏夜に、
次々と食レポの仕事が入ってくるようになった。
新たに未夕と菜々美は超有名バラエティ番組出演が、佳乃は人気雑誌のモデル撮影、
藍里に地元テレビ局のミニコーナーレギュラーが決まる。
それぞれが気合十分で現場に臨むのだが……

 第2話の感想で「和気藹々に騙されるな」と書いた。問題や課題が持ち上がっても、仲良く励まし合いながらぬるっとやり過ごしている展開は、いずれくる落とし穴への布石と読めたからだ。なので第3話でも基本的にまた失敗を見せてはぬるくやり過ごし、ラストでバカっと落とし穴に落ちるような、所謂アニメの第3話的な急展開があるんじゃないかと半分予想していた。だがこの話では、予想していたのとは違う空気の転換を図ってきた。これは上手く騙された。

 まずAパートでは、こちらが予想していたとおりに話が進む。未夕と菜々美が丹下社長の謎の人脈で、超有名トークバラエティ番組のゲストにねじ込んでもらえたものの、本番では緊張のあまりぐだぐだとなってしまうのだ。一緒に出演していたI-1 Clubの相沢菜野花の場馴れした対応とは完全に差がついてしまい、結局オンエアーで二人のトークはカットされてしまった。社長曰く「バラエティーのトークっていう商品になってなかった」というわけだ。

 一方佳乃も、やはり社長の人脈で(これ、ホント万能設定だなw)、有名ファッション雑誌のモデル撮影の仕事を受ける。佳乃は仙台の地元誌でモデル経験があったため、自信をもって現場に臨んだが、しかし期待された表情が出来ず、専属モデルの子たちとの差を見せつけられ、鼻を折られてしまった。そこで彼女は「もっとさ、らしい顔できない?アイドルなんでしょ?」と言われてしまったのだ。

 藍里は地元局で、日常ニュースを紹介するコーナーを任されることになる。地元とはいえ今までは仲間たちが一緒だったが、初めて一人でコーナーを持つことになり、真面目な彼女なりに一生懸命準備して、まずはなんとか失敗なく乗り切った。しかしディレクターからはもう少しアイドルらしい「それっぽさ」を求められ、悩むことになる。

 Aパートでは、4人それぞれが課題を持ち帰ってきたわけだ。しかし先週までの流れなら、あまり気負わず頑張ればいいんじゃない、って感じでやり過ごしていたに違いない。だがBパートで、この4人プラス先週課題を持ち帰った2人にも変化が現れた。いやあ、侮っていた。先週は馴れ合いの「ホーム」のように見えた共同生活が、メンバーの意識に変化の連鎖をもたらす「ホーム」として機能し始めたのだ。

 まずは先週ダイエットに悩んでいた夏夜。あれからダイエット日記のブログを始めたのだ。アイドルがそんなことして大丈夫かと心配する未夕に対し「逆にアイドルだからいいかなって」と、飾らない自分を出していくことにしたのである。先週のエピソードを、決して有耶無耶にはしていなかったのだ。前作の夏夜は最も震災の傷を背負った子として描かれ、真夢と同じかそれ以上に心に悲しみを抱え、自分の内側をさらけ出すのに勇気を必要としていた。そんな夏夜が、ダイエットという女の子らしい日常に悩み、それを素直に表に出していけるようなったのは、恐らくこの一年余りの間に絆を深めたメンバーとの共同生活がベースとなっているからだろう。

 未夕もまた、夏夜に触発されて、一人トークのネット番組を始める。好きなことを一杯しゃべりつつ、トーク力を高めていこうという狙いだ。元々WUGのムードメーカーで、オフでは好きなことを元気にしゃべれる子ではあったが、負けず嫌いというタイプではなく、また決断力もない方だった。それが「またトーク番組に出られるように」と自分でアイデアを出して松田を説得し、自ら弱点克服に努力をし始めたのである。

 佳乃には、今度は水着グラビア撮影の話が来る。しかし自分のスタイルの自信のなさ(千早マイナス2cm)に一旦躊躇する。だが断ったらこの話はI-1に行くと聞かされ奮起。海辺での撮影で、ちょっとドジだけど、とても楽しそうな笑顔を引き出してもらい、佳乃はここで「自分らしさ」を感じ取るきっかけを掴んだ。第3話の作画は実は全体的にちょっと怪しげなのだが、ここの静止画に全力投じたんじゃないかというくらいよっぴーが可愛い。

 そんな佳乃の「楽しそう」「自分らしさ」というのを目にして、次は藍里と実波が触発される。藍里は番組で、思い切ってイメージアニマルのサメの被り物を被り登場。自分自身が明るく楽しく番組をやることにしたのだ。思い切ったギャップを見せ、評判も悪くない。

 実波は前回共演した食レポ芸人二人の番組に出演し、「また、うんめ〜にゃ〜かあ?」とからかわれたところで、得意の演歌調で歌いながら味を表現し、それでも最後にしっかり「うんめ〜にゃ〜」で定番ネタもアピール。これが芸人たちにも受け、彼らから可愛がってもらえるポジションに入り込んでいけそうだ。

 そして今度は菜々美。実波が歌を武器の一つとし始めたことで、自分も歌の仕事がしてみたいと社長に話す。すると社長がミュージカルのオーディションのチラシを彼女に手渡した。かつて菜々美は、光塚歌劇団に入ることを夢見た少女だったが、悩み尽くした末にWUGとの絆を選んでいた。そのため「今さらこういうのは…」と躊躇する。だが、ここからの菜々美と社長のやりとりが実にいい。

社長「アイドルがミュージカルをやっちゃいけないっていう法律でもあるの?」
菜々美「そういう問題じゃ…」
社長「なによぉ、まだ光塚に未練でもあるわけ?」
菜々美「そんなんじゃないです!」
社長「あっそ。ならいってらっしゃい。」
菜々美「…はいっ!」(気づいたような笑顔で)

 諦めることと否定することはイコールではない。諦めたものも、今の自分として肯定していくことは可能だ。菜々美がそのことに気づいた瞬間が、実に気持ちよく描かれている。続劇場版後篇「Beyond the Bottom」の菜々美を見ていればこそ、このシーンはたまらなく胸にくる。オーディションは「全然ダメ」だったが、帰宅した菜々美の表情は清々しい。そして「私いつか絶対ミュージカル出てみせる!」と力強く宣言するのだ。

 この第3話は、前作で残してきた宿題に取り組んでいく話とも言える。前作で一度は東京に進出したものの、バラエティ番組では全く馴染めず、bvexから与えられた新曲「素顔でKISS ME」も自分たちのイメージに繋げられなかった。そこで彼女たちが取った手段は、地元仙台に戻り、ステージパフォーマンスに特化して、ユニットとしての力を高めていくことだった。だから新章第1話でも、Sステという全国ネットの超有名歌番組で、ステージだけは完璧にこなしているのである。しかし再び全国を目指すには、かつてやり残してきたものにも向き合わなければいけない。菜々美については、個人としてかつて諦めた夢を、アイドルとして克服していかなければならない。この第3話では、ユニットとしては既に絆が深まっていたWUGメンバーたちが、共同生活という「ホーム」を得たことで、逆に個人として互いを刺激し合うことになり、各々が自立してそれぞれのやり方で宿題に取り組み始めたのである。第2話のサブタイトル「ここが私たちのホーム」は、ここで活きてきた。

 しかし、実はまだ一人だけ動きがないメンバーがいる。センターの真夢だ。元I-1 Clubセンターという経歴が、逆に使い所の難しさになっているのである。前作で真夢は、WUGというユニットに自分を見出したことで、I-1の過去の重荷から解かれているのだが、WUGを「ホーム」としつつも個人として動こうとするとき、再びI-1という過去に直面することになる。構図的には菜々美に近い。そこで舞い込んできたドラマ出演のオファー。しかもかつての仲間でありライバルである岩崎志保との共演だ。新章もどうやら、真夢を話の軸にして進んでいくことになりそうだ。

 物語はもちろんまだ序盤なので、このまま勢いに乗ってイケイケの展開とはならないだろう。今回前向きに取り組み始めたものは、落とし穴ではなくとも、壁にぶち当たるかもしれない。もっと大きな逆風かもしれない。でもこの第3話の彼女たちを見たら、とてもポジティヴな気持ちで続きが見たくなってきた。当たり前だけど、「三話切り」はないねw