小川洋子『薬指の標本』
- 作者: 小川洋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1997/12/24
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡…。人々が思い出の品々を持ち込む「標本室」で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは…。奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。
まだドイツ在住中の頃、一時帰国した際に映画『博士の愛した数式』を見た。強烈なインパクトがあったわけではないが、しんみり心に沁みるストーリーでそこそこに気に入っていたので、その原作者小川洋子の作品を何か一冊読んでみようと思い、手に取ってみたのがこの作品。
だが『博士の愛した数式』とは全く趣が異なり、かなり戸惑った。そして正直な感想として、よく分からなかった…orz
短編2篇、表題の「薬指の標本」と「六角形の小部屋」は、一応同じところに作者のコンセプトがあるのだとは思う。両作品に共通しているのは、主人公の女性がもつ「自分」というものが、自分でもよく分からないうちにぼんやりと薄れていく様子である。世の中には自分をしっかり持つことを促し鼓舞する言説や物語が溢れているが、この文庫本の中では自己が薄れ消失していく様が描かれているのだ。といってもそのような主人公たちを批判するわけではなく、またそのような様を然も真理の如く語り説教するのでもない。「薬指の標本」では主人公とともに消えるように物語が終わり、「六角形の小部屋」では主人公の中で何かが失われ不安に戸惑うようなままページが尽きる。読み手は何かもやもやとした判然としない(釈然としないではない)気持ちのまま取り残された感じだ。それがいいでも悪いでもなく、ただ判然としないのである。
読み終わった後、「薬指の標本」をグーグルに引っ掛けてみたら、なんとフランスで映画化されてたんですね。
→映画公式サイト
確かに日本を舞台とするより、作品の空気はフランス映画っぽいかもしれない。ただ、アパート共同の浴場はどういう扱いになっているのだろう?みんなで浸かる風呂というのはヨーロッパにはなさそうなんだが…。