かみちゅ!

旧作一気見。

かみちゅ! 1 [DVD]

かみちゅ! 1 [DVD]

内容(公式サイト ストーリーより)
心地よい自然が残り、ゆるやかな時が流れる瀬戸内の町。
主人公、一橋ゆりえは普通の中学生。彼女は、
ある日突然ひょんなことから神様になってしまった!!
人は予想もできない大きな力を手に入れたらどうするのだろう。
でも、大切なことは一生懸命がんばること。
あったかくて、そして楽しくて。
みんなが持ってた大切なものがきっと見つかる。

 「光恵ちゃん、わたし神さまになっちゃった。」

 第1話冒頭、学校でお弁当食べながら呟いたゆりえのこの一言で始まるこのアニメ。何の神さまかも分からず、「昨日の夜、なったばっかだから。」だけで説明おしまい。しかも日本の八百万の神さまは、謂わば万物あらゆるものに宿っているから、どんな神さまだってありになる。つまりこのアニメの世界では何の制約もないないのだ。しかしそれでいて無尽蔵にはちゃめちゃなことをやるのではなく、ゆりえは飽くまで普通の中学生。特に優秀だとかでもなく、どちらかというと年より幼いくらいで、実にまったりとした中学生らしい日常の生活を送る中に、何でもありの神さまたちの日常がするりと入り込んできて、そのどうしようもないほどのギャップに思わず噴出してしまうのだ。こんなにほのぼのとして可笑しく罪のないアニメ、小中学生でも見られる時間帯にやっててもよかったのに、深夜アニメだったなんてもったいない。

 ある意味ジブリ作品をあれこれ美味しくいただいて、更にライトなノリにした作品ともいえる。「魔女の宅急便」で魔女の存在が当たり前のように人々に認知されていたように、「ゆりえちゃん、神さまになったんだってねぇ。」の一言で「神さま」ゆりえもあっさり人々に承認される。神さまたちが集まる世界は、「千と千尋の神隠し」の世界と殆ど同じだ。そして基本的に悪い子がいない中学生の日常は、「耳をすませば」の学校の雰囲気にも似ていた。

 ただ直接のモチーフではないにしても、日本のアニミズム的神さまがほのぼのと隣にいる感じで描かれるようになったきっかけは、改めて「となりのトトロ」なんだろうなと思う。それ以前に日本的なる文化を用いた作品は、基本的に侍や忍者だったり、また霊的存在は妖怪としておどろおどろしく描かれていたような気がする。神秘的モチーフはキリスト教ギリシア神話に依っていたと思うし、それは「トトロ」以降もしばらくは続いていた。しかし宮崎駿がその後も「もののけ姫」(もっともこれはよくよく見れば一神教的なんだけど…)や「千と千尋の神隠し」で日本の神道世界をしつこく描いたことで、「トトロ」を含めた日本的神概念がその他の作品にも流入してくることになったと思える。

 しかしそのような現象には日本の社会的要因も十分にある。「トトロ」はまだバブル後期の作品だが、バブル崩壊後日本は自信喪失時代に突入し、一方で冷戦崩壊後の世界ではイラクや旧ユーゴ等で一神教文化圏同士の救いのない争いが繰り返された。そんな中で気ままに共存する(とイメージされる)日本の八百万の神々が、自信喪失した日本人にとって争い合う世界に自慢できる心のよすがになっていった側面は否定できないだろう。(まだ見てないけど)「かんなぎ」や、神主家族が出てきて舞台の鷺宮神社が聖地となった「らき☆すた」、神じゃなく妖怪だけど基本的にその存在に罪を問わない「夏目友人帳」など、そんな今の時代の流行を思わせる。

 「かみちゅ!」はそういった諸々の要素をたっぷり美味しくいただき、楽しく心地よい部分だけを使って作っちゃいましたって感じ。作品自体はとても楽しめたし、お気に入りになったのだけど、こういう作品が存在しえる背景にはいろいろ考えるさせられるところがあった。