森見登美彦『太陽の塔』
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/06/01
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった!クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
う〜ん、ある意味面白いのだけど、何というか、ブログを読んでるような小説だなぁと。
主人公「私」は、振られた彼女に未練一杯なのだけど、一応京大に入るくらいの頭の良さを持っているものだから、あらゆる言葉を駆使して妄想世界を構築し、情けなさ丸出しの自分を自己正当化していく。そこに同じく男汁にまみれた仲間たちが絡み、もてない男たちのルサンチマンが偉そうなほどこれでもかと吐き出されていくのである。しかしそれは何より、自分たちの情けなさの裏返しなのだけれども。
ブログのようだというのは、ひたすら主人公の独白によって話が綴られていくからであり、時に現実を描写しているのか、彼の妄想なのかが分からなくなる独り善がりな世界が繰り広げられ続けるからだ。ただそういう独り善がりな自己正当化が明け透けに見えることによって、登場する男子学生たちのどいつもこいつもが実は特別でも何でもない、しょうもない野郎どもなのだというのが分かってくるのである。つまりこの小説は、イケてない若者たちの妄想全開な、在り来たりな日常を描いた物語なのだ。
中年オヤジになってもイケてない人生真っ只中の自分としては、若い頃の自分を見るような懐かしさと同時に、そんな痛い自分を思い出させないでくれよ、という複雑な気分にもさせられる。自分にも大学生時代、別れた彼女の帰り道に然も偶然を装って待ち伏せし、何とかまた話をしようとかした、ああもー痛い痛い痛い過去があったりして、地下鉄の中で読みながらそんな記憶を穿り返されて、「ちょっと勘弁してくれよ〜」と嘆き苦しむ羽目にもなったのである。そういう意味で、何度か途中で投げ出したくなったw
京都の街が細かく描写されているので、この街に住んだことのある人なら、また別な形で楽しめるのではないだろうか。
イケメン・リア充な学生時代を過ごした人にはどうかは分からないが、振り返ってみると「あの頃の俺はルサンチマンの塊だったよなぁ」と思うような人には、痛い自分の掘り起こしというマゾ的な楽しみとして読んでみるのもいいかもしれない。かなりくどい文体だけど。
女性にはこんな痛い野郎たちを「なかなか可愛いじゃない」と思ってやってもらいたい。……お願いします。