ソ・ラ・ノ・ヲ・ト ― 第9話「台風一過・虚像ト実像」

内容(公式サイト 各話あらすじより)
クレハの憧れの人・クラウス。
彼はかつて「砂漠の狼」と呼ばれた伝説的な戦車乗りだったそうです。
台風で立ち往生し、砦に留まることになったクラウスとの会話に胸を弾ませるクレハでしたが、そこに飛び込んできたのは、教会の孤児・セイヤが行方不明になったという知らせでした。
大荒れの天気のなかセイヤを捜すために立ち上がった小隊メンバーたち。
はたして、無事セイヤを見つけ出すことができるのでしょうか……。

◆虚像1 クラウス

「いいか嬢ちゃん。傍から見えるもんと当の本人が感じてるもんは、大抵の場合違ってるんだ。憧れって眼鏡が、いつもピンボケなのさ。いつかあんたがその眼鏡で見られるとき、辛さが分かるよ。」

 「砂漠の狼」「ミラクル・クラウス」と呼ばれる英雄クラウス少佐。しかしそれはクレハの一方的な勘違いで、実は勤続年数が長いだけの一介の通信兵に過ぎない男であった。ただ勝手に盛り上がり憧れを抱くクレハに、本当のことを打ち明けるきっかけを逸していただけなのである。
 台風の中、増水で徐々に削り取られる川岸に取り残されてしまうクラウスとクレハ。成すすべもなく助けを待つ中、死んだ父の姿を重ね合わせてクラウスを頼りにするクレハに対し、彼は恐怖を押し殺して虚像「ミラクル・クラウス」を演じる。一方クレハは、伝説の英雄にあるはずの胸の刺青がクラウスにないことに偶然気付いてしまう。それでも「死んだ親父さんの代わりに俺がしっかり守ってやる。」と言うクラウスに、彼女は憧れという眼鏡のピントを改めて合わせた。
 助かった後も憧れの瞳を失わないクレハのためにクラウスは虚像を演じ続けることにするが、しかしその虚像はクレハの中で違う虚像へと置き換えられる。その新たな虚像は、しかしクラウス本人が感じている実像より、より彼の実像に近いのかもしれない。

◆虚像2 クレハ

「いい、親がいない子どもは、普通の子よりしっかりしてなきゃいけないの。みんなに迷惑かけたら「やっぱり」って言われるの。あんたたちだけじゃない。ユミナ、あんたたちのお姉ちゃんもね。」
 無茶をして川岸のナス畑を見に行ったセイヤを助けたとき、「助けてくれなんて言ってない!」と言う彼に対し、クレハは彼を抱きしめてこう言う。孤児に向けられてしまう周りの虚像に対し、それに負けない自分、本人が感じている実像以上の虚像としての自分を演じる覚悟をクレハはセイヤに教えるのである。
 彼女はこれまできっと虚像に負けない虚像を演じて生きてきたのだろう。だからこそ強がりであり、またクラウスやリオへの憧れも人一倍となる。殆ど記憶に無い父を英雄として自慢できるのも、自分を支える憧れの虚像が必要だからなのだろう。しかしまた、それら憧れの虚像へ近付こうという思いが、実像としての自分を強くする。少なくともクレハはセイヤに対し強い虚像を演じた。それがまたクラウスにも虚像を演じさせる動機となり、実像としての彼をも強くすることになったのだと思う。

◆虚像3 リオ

 前回の電話で父(これは今回フィリシアの発言で確定)から「ヘルヴェチアを救ってくれと」と頼まれたリオ。そのあと十分な会話をせずに切ってしまったようだが、第5話のとき届いていた父からの手紙をこの後ようやく読んだようで、迷いの中、彼女はトランペットを吹き鳴らす。心ここにあらずといったリオを心配するカナタの様子に気付き、フィリシアはリオに「せめてあの子たちの前ではかっこいい先輩でいてあげて。」と頼む。
 休戦協定会議が難航している話にクラウスが「イリア皇女殿下がご存命であったら、また話がちがったんだろうがなあ。」と呟くが、それは即ち父がリオにイリアの代わりを期待しているということを指すのであろう。クラウスからリオ宛に1号特別として新たに届けられた書簡は、彼女にその責務を求めるもののようだ。
 国を救う象徴としての虚像。かっこいい先輩としての虚像。自分が感じている実像とかけ離れた虚像に、リオは迷い、苛立つのである。
 そこで起こったクレハとクラウスの事件。虚像を演じ切って戻ったクラウスがカナタに語った言葉(「虚像1 クラウス」の最初に書いた台詞)は、図らずもリオの胸に強く響く。憧れの眼鏡で見られることは辛い。だが、それに応えて虚像を演じ切ったこのときのクラウスは、誰よりも強い男として彼女たちの目には映っていた。
 リオはかつてイリアを憧れの眼鏡で見ていたのだろう。だからこそイリアという虚像と自分の感じる実像との間に苦しんでいた。しかしイリアもまた虚像を苦しみながら演じていたのかも知れず、だからこそリオにとってイリアは輝いていた。クラウスの言葉は、そのことをリオに悟らせたのかもしれない。
 次回タイトルは「旅立チ・初雪ノ頃」。リオは虚像を強く演じ切るために旅立つのであろうか?

★おまけ

・冒頭の「ぱんっ!」とパンツ。ありゃ前回汚しちゃったのを洗ったのかしらカナタ…。
・だんごむしに興味津々のノエルかわゆす…。
・てんぷらの味を思い出してカナタと一緒に笑うノエル。…ノエルが笑った!しかも下着上下黒で!