桜庭一樹『赤×ピンク』

赤×ピンク (角川文庫)

赤×ピンク (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
東京・六本木、廃校になった小学校で夜毎繰り広げられる非合法ガールファイト、集う奇妙な客たち、どこか壊れた、でも真摯で純な女の子たち。体の痛みを心の筋肉に変えて、どこよりも高く跳び、誰よりも速い拳を、何もかも粉砕する一撃を―彷徨のはて、都会の異空間に迷い込んだ3人の女性たち、そのサバイバルと成長と、恋を描いた、最も挑発的でロマンティックな青春小説。

 先日読んだ『GOSICK』の作者桜庭一樹の当シリーズ以外を読んでみようと思って取り合えずチョイスしてみた一冊。読み終わってから最後のページを見て気付いたのだが、これも最初は所謂ラノベ系のファミ通文庫から出版されていた。しかし『GOSICK』のときとは違い、読んでいる最中にこれがラノベだとは全く感じなかった。普通に一般向けの文芸作品だ。

 舞台となるガールファイト。ファイターとして戦う女たちはそれぞれ適当な設定と衣装を与えられ、異種格闘技のようなショーを演じる。自分の試合以外の時間は手錠と鎖で繋がれ、客から指名を受ければ鎖に繋がれたままその隣に座らされ、相手をする。観客にとって彼女たちは日常の現実を離れたフィクションの存在だ。主人公の一人まゆは幼くか弱い容貌のゆえに14歳(実年齢21歳)の設定である(因みに東京都が最近画策している条例が通れば、非実在青少年の虐待として解釈される可能性もあるんじゃなかろか)。

 しかし彼女たちは(作中においては)実在の人間である。だが3人の主人公となる女たちは、それぞれに「自分」というものの所在を不確かなものとしてしまっている。彼女たちには現実という日常がありながら、不確かな「自分」という存在に安心できる瞬間は、八角形の檻の中でフィクションの存在として戦っている時。

 だが最初の主人公まゆが檻を飛び出して走り去った瞬間から、ミーコ、そして皐月へと玉突きのようにフィクションの中の「自分」が揺り動かされていく。

 三者三様の「自分」の不確かさから改めて見つけ出された「自分」は、果たして幸せな将来へと繋がっているのか、それは分からない。まゆなどは新たなフィクションへ走り去っただけのようにも解釈できる。だがそんな「自分」を認めてくれる存在が見出されるとき、不確かな「自分」はより確かな「自分」になっていくということなのだと思う。

 この小説は3人をそれぞれ主人公とした3つの物語として構成されているが、まゆ→ミーコ→皐月へと時間の流れを半分ずつオーバーラップさせて玉突きのように展開されている。その中を泳ぐように登場する高校生の武史は、謂わば読み手がこの作品世界に放り込まれたときの存在なのかもしれない。彼が男だという点でも、傍から彼女たちを見ていると「No〜〜〜〜〜!」と英語で叫ばざるをえないくらい、訳が分からない状態に陥るのだろう。そういう意味で彼女たちの実在は、第三者から見ればどこまでも結局フィクションなのかもしれない。つまりフィクションの中にもまた実在は存在する。そういうことなんじゃないだろうか。