ソ・ラ・ノ・ヲ・ト ― 第11話「来訪者・燃ユル雪原」

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内容(公式サイト 各話あらすじより)
砦に届いたのは、東部国境の敵軍が移動を開始したという
不穏な噂。
カナタたちは不安に揺れながら、
それでも明るく日々を過ごしていました。
そんなある日、カナタとクレハは雪原で傷ついた一人の少女を見つけます。
しかしその少女の正体は、
敵国ローマの兵士だったのです――!

 今回登場の捕虜アーイシャが話すローマ語は思いっ切りドイツ語ですね。ただアクセントに結構訛りがあるので、どこのどいつのドイツ人が中の人かとEDを見てみたら宮原永海さんなる日本人だった。失礼ながら知らない声優さんだったのだけど、Wikiで調べてみたら、なるほどオーストリアザルツブルク仕込み。ネイティヴと聞き間違うほど流暢に訛ってますw

 ユミナ役の福圓さんのドイツ語は、日本人発音だけど結構きれい。所謂大人になってから修得した人のドイツ語。これまでにドイツ語経験がなかったのだとしたら、かなりセンスがいい。

 因みにアニメでドイツ語というとエヴァのアスカが真っ先に思い出されるわけだが、あれはエヴァを見たドイツ人の友だち曰く、しばらくドイツ語を喋っていると気付かなかったほど。そもそも脚本の台詞自体こなれてないし、アドバイスできるまともなドイツ語話者が制作者周辺にいなかったんだろうなと。

 さて、字幕がなかったため、ユミナが通訳したところ以外のローマ語(ドイツ語)は大抵の視聴者に意味が伝わっていないと思う。しかしちょっと分かっていたほうがよい台詞もあったので、以下いくつか訳しておきます。

アーイシャが砦に運び込まれた直後、ノエルが回想した場面で血を吐いて横たわるローマ兵が呟いた言葉
 「ヘルヴェチアの魔女…」(Die Helvetia-Hexe...)
 終盤のシーンからローマ人にノエルの名前は周知されてることが分かるので、これはノエルを指しているものと解釈できる。

◆クレハたちの尋問場面(自分の所属身分説明)
 ローマ帝国陸軍第1戦車師団第13戦車大隊B中隊 [???(多分階級)]アーイシャ・アルドーラ、ID番号:1031021」(Landstreitkräfte des Romischen Reiches, erste Panzerdivision, dreizehntes Panzerbatailon, Kompanie B, [???], アーイシャ・アルドーラ, ID-Nr.1031021)
 クレハに目的等訊かれても所属身分を繰り返している。

◆尋問後カナタが「時告げ砦にようこそ!」と言った後
 「そうか、じゃあ私は本当にやって来たんだ。…おばあさん」(Also, dann bin ich tatsächlich angekommen. ...Großmutter)
 後半のユミナの通訳で分かることだが、この時点で私的な目的で時告げ砦にやって来たことを示唆している。

◆食事後カナタが「エンゲル?」と訊き返したアーイシャの言葉
 「ちょっと聞いて。君たちは化石になった天使を見たことがあるか?」(Hör mal. Habt ihr einen versteinerten Engel gesehen?)
 これもユミナの通訳であとから分かることだが、この辺で既に話題に出ている。

◆カナタのトランペットを褒めている場面
 「いい響きだ。こんなトランペットがまだあったなんて全然思わなかった。」(Die klingt prima! Ich dachte gar nicht, daß es solche Trompete noch gibt.)
 イリアからリオ、そしてカナタへ受け継がれているこのトランペットはかなり貴重なもののようだ。

ユミナが自己紹介(「ヘルヴェチア正教会に仕えてます。あなたに千の幸運を願います。」と言っている)したあと。
 「なるほど、邪教徒の一人か。神は一人しかいない。そんな[???]は神様レストランだ。」(Also, einen von diesen Ketzern. Es gibt nur einen Gott. Solch ein [???] ist ein Gottesrestaurant.)
 [???]の部分はよく聞き取れないのだけど、要は、多神教は神様がメニューに並んだレストランみたいだと否定しているわけで、この物語の世界観では結構重要な要素を明かしている。ユミナが「軽い挨拶です」と言っているのは、宗教観の溝が当たり前になっていることを指していると言え、ヘルヴェチアとローマ帝国との戦争も、単なる利害対立だけでない宗教観の違いが前提とも言える。そうなるとイリアの輿入れ程度で済む話じゃない気もするが、まあそれはペンディング

ユミナが「世界を滅ぼした黙示録の天使を見たかった」と訳した部分をもう少し補足
 「私はそれをどうしても一度見たかったんだ。祖母が見たその天使を。遥か昔に地上に罰をもたらした黙示録の天使を。」(Ich wollte ihn unbedingt einmal sehen. Der Engel, den meine Großmutter gesehen hat. Der Engel der Apokalypse, der vor langer Zeit die Strafe auf die Erde gebracht hat.)
 ユミナが訳したような単に「世界を滅ぼした黙示録の天使」というのではなく、「遥か昔に地上に罰をもたらした」というのが旧世界の惨事に対する根本的な価値観の違いを表している。

 以上、拙訳お粗末さまでした。

 ストーリーは一気にシリアスな展開へ突入した。これまでほのぼの描かれていた傍らで、決して平穏なだけでない世の中の空気は暗示されてはいたものの、さて残り1話でどうするのかと心配にはなる。悪役上官が出てきて砦を一旦押さえてしまう辺りは、ちょっとストライクウィッチーズの終盤と被るのだけど、上官側の見通しの甘さとウィッチたちの能力で逆転したような展開は、まあないだろう。

 ただ「音は響く。そして繋がる。」というこの物語の中で繰り返し伝えられてきた言葉は、今回アーイシャアメイジング・グレイスを奏でたことで改めて意味を持った。戦争で敵対し、言葉が通じず、宗教観すら異なる者同士であっても、共通の音色は人を繋ぐ。アーイシャもこの場面でカナタとノエルに打ち解けた表情を見せる。

 もちろんここであから様なヤックデカルチャーをやられると興ざめになるのだけど、ローマ軍すら国境に迫る窮地で、自らの役割を演じるために砦を去ったリオがどうカナタたちと繋がり合うのか、というところが大きなポイントになるのだろう。またこのまま伏線を回収できないままになりそうだった翼の悪魔や炎の乙女の伝説も、ジグソーパズルを埋める最後のピースとしてバチっと嵌め込まれてきそうでもある。しかし一方でノエルの過去がアーイシャとホプキンス大佐の登場によって吹き出るように明らかにされ、冷静さを失った彼女が物語の状況を途端に不安定なものへと変えてしまった。

 あちこち一見ばらばらに嵌め込まれてきたジグソーパズルのピースが、どのような形で繋がり大きな一つの絵に仕上げられるのか、最終回の力技を期待。