道尾 秀介『ソロモンの犬』

ソロモンの犬 (文春文庫)

ソロモンの犬 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
秋内、京也、ひろ子、智佳たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友・陽介の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行く。そして予想不可能の結末が…。青春の滑稽さ、悲しみを鮮やかに切り取った、俊英の傑作ミステリー。

 水色の背景に犬の振り向く顔が妙に目立って本屋に平積みにされていたので、つい買ってしまった一冊。ミステリーとはいえ、人の悪意というものは基本的にはなく、むしろ一つの青春を描いたような作品である。物語の契機がまだ幼い少年の死というのが、自分にとってはちょっと辛く、話の鍵となる犬のオービーの姿にも胸の痛みを感じるものがあった。全体的には上手に真相を隠しながら読み手を引き込む面白い作品だったのだけど、最も不幸なのが最も幼く、また最も弱い存在だったというのが、悲しさを最初から最後まで引きずらせてしまった。物語としては仕方ないのだろうけど、読み終わって何となく辛さが残ってしまった。