機能し始めた「ホーム」 Wake Up, Girls! 新章 ― 第3話「ポニーテールは本体です」

内容(公式サイト 各話あらすじより
食べっぷりが評価された実波と夏夜に、
次々と食レポの仕事が入ってくるようになった。
新たに未夕と菜々美は超有名バラエティ番組出演が、佳乃は人気雑誌のモデル撮影、
藍里に地元テレビ局のミニコーナーレギュラーが決まる。
それぞれが気合十分で現場に臨むのだが……

 第2話の感想で「和気藹々に騙されるな」と書いた。問題や課題が持ち上がっても、仲良く励まし合いながらぬるっとやり過ごしている展開は、いずれくる落とし穴への布石と読めたからだ。なので第3話でも基本的にまた失敗を見せてはぬるくやり過ごし、ラストでバカっと落とし穴に落ちるような、所謂アニメの第3話的な急展開があるんじゃないかと半分予想していた。だがこの話では、予想していたのとは違う空気の転換を図ってきた。これは上手く騙された。

 まずAパートでは、こちらが予想していたとおりに話が進む。未夕と菜々美が丹下社長の謎の人脈で、超有名トークバラエティ番組のゲストにねじ込んでもらえたものの、本番では緊張のあまりぐだぐだとなってしまうのだ。一緒に出演していたI-1 Clubの相沢菜野花の場馴れした対応とは完全に差がついてしまい、結局オンエアーで二人のトークはカットされてしまった。社長曰く「バラエティーのトークっていう商品になってなかった」というわけだ。

 一方佳乃も、やはり社長の人脈で(これ、ホント万能設定だなw)、有名ファッション雑誌のモデル撮影の仕事を受ける。佳乃は仙台の地元誌でモデル経験があったため、自信をもって現場に臨んだが、しかし期待された表情が出来ず、専属モデルの子たちとの差を見せつけられ、鼻を折られてしまった。そこで彼女は「もっとさ、らしい顔できない?アイドルなんでしょ?」と言われてしまったのだ。

 藍里は地元局で、日常ニュースを紹介するコーナーを任されることになる。地元とはいえ今までは仲間たちが一緒だったが、初めて一人でコーナーを持つことになり、真面目な彼女なりに一生懸命準備して、まずはなんとか失敗なく乗り切った。しかしディレクターからはもう少しアイドルらしい「それっぽさ」を求められ、悩むことになる。

 Aパートでは、4人それぞれが課題を持ち帰ってきたわけだ。しかし先週までの流れなら、あまり気負わず頑張ればいいんじゃない、って感じでやり過ごしていたに違いない。だがBパートで、この4人プラス先週課題を持ち帰った2人にも変化が現れた。いやあ、侮っていた。先週は馴れ合いの「ホーム」のように見えた共同生活が、メンバーの意識に変化の連鎖をもたらす「ホーム」として機能し始めたのだ。

 まずは先週ダイエットに悩んでいた夏夜。あれからダイエット日記のブログを始めたのだ。アイドルがそんなことして大丈夫かと心配する未夕に対し「逆にアイドルだからいいかなって」と、飾らない自分を出していくことにしたのである。先週のエピソードを、決して有耶無耶にはしていなかったのだ。前作の夏夜は最も震災の傷を背負った子として描かれ、真夢と同じかそれ以上に心に悲しみを抱え、自分の内側をさらけ出すのに勇気を必要としていた。そんな夏夜が、ダイエットという女の子らしい日常に悩み、それを素直に表に出していけるようなったのは、恐らくこの一年余りの間に絆を深めたメンバーとの共同生活がベースとなっているからだろう。

 未夕もまた、夏夜に触発されて、一人トークのネット番組を始める。好きなことを一杯しゃべりつつ、トーク力を高めていこうという狙いだ。元々WUGのムードメーカーで、オフでは好きなことを元気にしゃべれる子ではあったが、負けず嫌いというタイプではなく、また決断力もない方だった。それが「またトーク番組に出られるように」と自分でアイデアを出して松田を説得し、自ら弱点克服に努力をし始めたのである。

 佳乃には、今度は水着グラビア撮影の話が来る。しかし自分のスタイルの自信のなさ(千早マイナス2cm)に一旦躊躇する。だが断ったらこの話はI-1に行くと聞かされ奮起。海辺での撮影で、ちょっとドジだけど、とても楽しそうな笑顔を引き出してもらい、佳乃はここで「自分らしさ」を感じ取るきっかけを掴んだ。第3話の作画は実は全体的にちょっと怪しげなのだが、ここの静止画に全力投じたんじゃないかというくらいよっぴーが可愛い。

 そんな佳乃の「楽しそう」「自分らしさ」というのを目にして、次は藍里と実波が触発される。藍里は番組で、思い切ってイメージアニマルのサメの被り物を被り登場。自分自身が明るく楽しく番組をやることにしたのだ。思い切ったギャップを見せ、評判も悪くない。

 実波は前回共演した食レポ芸人二人の番組に出演し、「また、うんめ〜にゃ〜かあ?」とからかわれたところで、得意の演歌調で歌いながら味を表現し、それでも最後にしっかり「うんめ〜にゃ〜」で定番ネタもアピール。これが芸人たちにも受け、彼らから可愛がってもらえるポジションに入り込んでいけそうだ。

 そして今度は菜々美。実波が歌を武器の一つとし始めたことで、自分も歌の仕事がしてみたいと社長に話す。すると社長がミュージカルのオーディションのチラシを彼女に手渡した。かつて菜々美は、光塚歌劇団に入ることを夢見た少女だったが、悩み尽くした末にWUGとの絆を選んでいた。そのため「今さらこういうのは…」と躊躇する。だが、ここからの菜々美と社長のやりとりが実にいい。

社長「アイドルがミュージカルをやっちゃいけないっていう法律でもあるの?」
菜々美「そういう問題じゃ…」
社長「なによぉ、まだ光塚に未練でもあるわけ?」
菜々美「そんなんじゃないです!」
社長「あっそ。ならいってらっしゃい。」
菜々美「…はいっ!」(気づいたような笑顔で)

 諦めることと否定することはイコールではない。諦めたものも、今の自分として肯定していくことは可能だ。菜々美がそのことに気づいた瞬間が、実に気持ちよく描かれている。続劇場版後篇「Beyond the Bottom」の菜々美を見ていればこそ、このシーンはたまらなく胸にくる。オーディションは「全然ダメ」だったが、帰宅した菜々美の表情は清々しい。そして「私いつか絶対ミュージカル出てみせる!」と力強く宣言するのだ。

 この第3話は、前作で残してきた宿題に取り組んでいく話とも言える。前作で一度は東京に進出したものの、バラエティ番組では全く馴染めず、bvexから与えられた新曲「素顔でKISS ME」も自分たちのイメージに繋げられなかった。そこで彼女たちが取った手段は、地元仙台に戻り、ステージパフォーマンスに特化して、ユニットとしての力を高めていくことだった。だから新章第1話でも、Sステという全国ネットの超有名歌番組で、ステージだけは完璧にこなしているのである。しかし再び全国を目指すには、かつてやり残してきたものにも向き合わなければいけない。菜々美については、個人としてかつて諦めた夢を、アイドルとして克服していかなければならない。この第3話では、ユニットとしては既に絆が深まっていたWUGメンバーたちが、共同生活という「ホーム」を得たことで、逆に個人として互いを刺激し合うことになり、各々が自立してそれぞれのやり方で宿題に取り組み始めたのである。第2話のサブタイトル「ここが私たちのホーム」は、ここで活きてきた。

 しかし、実はまだ一人だけ動きがないメンバーがいる。センターの真夢だ。元I-1 Clubセンターという経歴が、逆に使い所の難しさになっているのである。前作で真夢は、WUGというユニットに自分を見出したことで、I-1の過去の重荷から解かれているのだが、WUGを「ホーム」としつつも個人として動こうとするとき、再びI-1という過去に直面することになる。構図的には菜々美に近い。そこで舞い込んできたドラマ出演のオファー。しかもかつての仲間でありライバルである岩崎志保との共演だ。新章もどうやら、真夢を話の軸にして進んでいくことになりそうだ。

 物語はもちろんまだ序盤なので、このまま勢いに乗ってイケイケの展開とはならないだろう。今回前向きに取り組み始めたものは、落とし穴ではなくとも、壁にぶち当たるかもしれない。もっと大きな逆風かもしれない。でもこの第3話の彼女たちを見たら、とてもポジティヴな気持ちで続きが見たくなってきた。当たり前だけど、「三話切り」はないねw

和気藹々に騙されるな Wake Up, Girls! 新章 ― 第2話「ここが私たちのホーム」

内容(公式サイト 各話あらすじより)
丹下の指示により、寮で共同生活をすることになったWUG。
さらに全国ツアーの構想を聞かされ、驚きつつも期待に胸を膨らませる。
丹下は知名度をUPさせるため、積極的にWUG!個人の露出活動を売り込み始める。

 第2話の感想をはじめる前に、改めて新章が始まった時点での、WUGの置かれている状況というのを想像してみたい。第1話を見た限り、新章開始時点のWUGは変わらず仙台に留まり、全国ネットのテレビ出演は殆どしていない。前作では1回目のアイドルの祭典出場後に東京の大手プロダクションbvexから声がかかり、一度は東京進出しメジャーデビューしている。しかし東京のビジネスルールに馴染まず、一旦仙台に戻って自分たちらしさを見直し、再度アイドルの祭典に出場して優勝、という大団円をもって、物語に一区切りを付ける。

 そこで本来なら、再び勢いに乗って東京進出してもおかしくないだろう。しかし一度失敗しているため、前作終了の2015年12月から新章開始の2017年3月の間は、敢えて仙台ローカルで足場を固めることに専念していたと想像できる。それゆえ第1話感想でも書いたとおり、この間にメンバー7人の仲が深まり、ユニットとしての安心感が出来てきたのだと思う。ただ一方でそれは、この間ぬるま湯に浸かっていた状態とも言え、いざ全国ネットの番組に出ると、素人っぽい油断が現れてしまうのだろう。第2話でも、そういった素人臭さが描かれることになる。

 第1話の最後に社長が「やるわよ、全国ツアー!」とブチ上げ、第2話にてメンバーたちにそれが告げられる。しかも最終会場として仙台スタジアム(名前からして当然万単位のキャパだろう)を押さえたという。しかし現在のWUGに当然そんな集客力はない。そこでまずピンの活動によるメンバー個人の露出機会を増やし、知名度を上げていく作戦を立てた。また同時に、メンバー全員が集まる機会が減るため、7人が一軒家で共同生活をすることになる。シリーズ演出的には恐らく、メンバー個人にスポットを当てやすくなると同時に、共同生活という設定によって、日常シーンとメンバー同士の喧嘩と和解といったシーンも入れやすくなるという狙いがあるのだろう。

 さて、早速第2話でスポットを当てられたメンバーは夏夜と実波、特に夏夜のほうだ。二人は全国ネットのご当地紹介番組に出演することになり、有名な食レポ芸人たちと並んで仙台料理を紹介することになる。食レポと言えば、その食べっぷりのよさが自慢で、仙台ローカルでは「うんめ〜にゃ〜!」の決まり台詞が人気の実波だが、しかし全国番組ではそんなアットホームな反応は返ってこず、食レポ芸人たちのリアクション芸に圧倒されてしまう。ただ、アイドルは太ると困るからこういうのはできないよねと、遠回しに馬鹿にされたことで夏夜がブチ切れ、「アイドルのカロリー消費なめんなよ!」と啖呵を切って食べまくってみせた。当人は収録後「やっちゃった…」と落ち込むが、これが思いのほか受けて、その後も二人に食レポ番組が舞い込むようになる。

 しかし連日の食レポ収録のため、夏夜が体重を気にしはじめる。だが「アイドルのカロリー消費なめんなよ!」と啖呵を切っていた手前、そのことをメンバーにも打ち明けられず、帰宅後もみんなとの食事を避けて、こっそりランニングに出たりしていた。しかしすぐにみんなにも発覚することになり、笑って励まされて、結局あまり悩んでも仕方ないよねって感じで丸く収まったのである。そしてみんなでお菓子をつまみはじめるという、メンバーの仲睦まじさが演出されて、このシーンは終了となった。めでたしめでたし。

 ……いや、果たしてそうだろうか?これ、間違いなく今後の落とし穴が示唆されてるよね。最初の食レポ番組では経験不足を露呈。とりあえず勢いでその場はいい方向に転換出来たものの、決して考えて乗り切ったわけではない。その結果、その時の勢いに縛られて、体重管理に失敗。しかしそのことも、メンバーみんなから笑って励まされて、何となく解決したような締め。でも、この回で起こった問題は、結局何も解決されていないのだ。WUGちゃんたちが和気藹々として、視聴者もほっこり気分になったかもしれないけど、これ、まさにぬるま湯に浸かった状態じゃないだろうか。折角与えられた引き締めの機会も、ゆるっとやり過ごしてしまっているのである。特に、最後にみんなでお菓子に手を出してしまうシーン。完全に弛緩している。

 そしてこのシーンから切り替わった瞬間、前作でWUGを叩き上げた早坂の登場だ。彼は仕事がどことなく捗らない中で、一瞬テレビを点けてそこに映った夏夜と実波を見、無表情にすぐそれを消した。現状に何か満足してない様子であることは明らかだ。そこにかかってきたI-1 Clubプロデューサー白木からの電話。I-1の新曲の件はどうなっていると聞く白木に、「どうも気分が乗らなくて。」とだけ答える早坂。それに対し「本当にそれだけか?」と問う白木。ワンシーン前のWUGとのコントラストに、今後このままではいかないであろうというWUGの未来が暗示されていると言えるだろう。

 また、そのまま切り替わった場面で登場した白木。スマホを手にしていることから、早坂との電話を切った直後かと思いきや、その画面に映っていたのは、この話の中で度々映し出されていたヴァーチャルアイドルの姿だ。現時点ではこのヴァーチャルアイドルが物語にどう関わってくるのか全く分からないが、何かしらWUGの活動をかき回すギミックになるのだろう。

 将来Run Girls Runとなる中学生3人も、今のところWUGにどう絡んでくるのかは読めない。しかし後輩の出現が、現在ぬるま湯に浸かっているWUGに刺激を与えていくことは確かだろう。

 今の和気藹々な雰囲気に騙されてはいけない。来週以降楽しみになってきた。

Wake Up, Girls! 新章 ― 第1話「私たち、Wake Up, Girls!でーす!」

内容(公式サイト 各話あらすじより)
「アイドルの祭典」で一度は国民的アイドルグループ「I-1Club」を下して
優勝した「Wake Up, Girls!」だが、未だ地道な活動を余儀なくされていた。
丹下はWUGのさらなる飛躍を目指し、松田に全国メディアへのプロモーションを命じる。

 2014年1月の劇場版、1〜3月のTVシリーズ、及び2015年秋の続劇場版前後篇にて一つの作品を完結させたアニメ「Wake Up, Girls!」が、約2年ぶりに「新章」という名で帰ってきた。

 決してスムーズに予定されていた続編ではない。前作はそもそもヒットしたと言えるほどのものではなかった。いろいろな意味で、お世辞にも出来がよいとは言えない作品だった。私も過去にTVシリーズについて、かなり厳しく書いている("Wake Up, Girls!"というアイドルの物語 − 単独イベント「イベント、やらせてください!」を終えて振り返る)。もちろんこれを書いた後に続劇場版を見、更に時間を経ていることで、良し悪し諸々、私の中の評価も多少は変わっている。しかし両手を挙げて「この作品は素晴らしい」と賛辞を送れないのは、やはり今も変わらない。一言で言えば、いろいろと「もったいない」作品だったということだ。

 それでも新章として続編が作成されるに至ったのは、言うまでもなく、作中のアイドル「Wake Up, Girls!」を演じたリアル声優ユニットWake Up, Girls!」の力によるものだ。彼女たちが、前作が終わったあともキャラクターたちを担い、リアルアイドルとして活躍してきたことで、作品としての「Wake Up, Girls!」を再び掴み取ったのである。

 しかし、監督の交代、キャラクターデザインの一新で、前作に思い入れの深いファンからは批判的な目を向けられる中での新章スタートだ。リアルWUGのメンバーも、ファンの間に不安があるのは当然と、折に触れて認めている。しかしそれでも見てほしい、キャラクターたちはみんなの知っている彼女たちのままだと訴えていた。

 そうなのだ。私は確かに前作の作りそのものには批判的だったが、それでも作品を否定できない気持ちにあったのは、7人のキャラクターたちがとても等身大で、リアルWUGのそれぞれと並び寄り添いながら存在していたからなのだ。私はリアルWUG7人のファンである。と同時に、アニメWUGの7人も好きで、彼女たちのその後も見てみたいと思っていたのである。

 因みに監督交代についてはあれこれ思うところはあるが、何かと面倒くさくなるので、深くは触れない。ただ一点だけ言及すると、前作は監督自身の半生に基づいた思いが反映されていたのに対し、ファンクラブ会報誌にあった新章の監督のインタビューを読むと、捉えようによっては、作品に対する彼のスタンスは、とても他人事なのだ。作品に対する個人的な思い入れが、ほとんど感じられないのである。ただそれは、彼がとことん職人に徹しているということでもある。

 夏の4thライブツアーでは、途中の衣装替えの間に、前作のシーンをまとめた映像が流れていた。それはまるで、旧キャラデザの7人へ別れを告げるような演出だった。人によってはそれを、前作を切り捨てる儀式のように捉えたかもしれない。しかしあのツアーのテーマは「つなご(TUNAGO)」である。ツアーの構成については、WUGメンバーも深く関わり、一杯議論したと話していた。つまりあれは、決して切り捨ての儀式なんかではない。新たな出発にあたり、「あなたたち(旧キャラデザ)を決して忘れたりしない。ちゃんとあなたたちの思いもつなげていくよ。」という決意を表す演出だったと私は受け止めている。

 前作は前監督個人の思いに基いて作られていたが、しかしそれを越えて、当時新人だったリアルWUG7人とともに、アニメWUG7人のキャラクターも、独り歩きを始めていたといえるだろう。とすれば新章は、彼女たちに対しとことん客観的になれる、職人のような監督でよいのではないだろうか。音楽担当のMONACAもまた、徹底した職人集団だ。彼らは職人に徹しているからこそ、作品に対して適切で感動的な曲を作ることが出来るのだ。ツアーの映像を見、新章監督のインタビュー記事を読んで、私の中では不安よりも期待のほうが大きくなっていた。

 而して迎えた新章第1話。すっかり前置きのほうが長くなってしまったが、率直な感想を述べていこう。

 まず新しいキャラデザについては、個人的には大きな違和感なく受け入れられた。いざ動き出し、声が付けば、原案としてのデザインが同じであれば、それほど抵抗なく入ってくるものだ。

 次にストーリーだが、これも導入としての第1話なら、取り敢えずこんなものだろうという感想。一度はアイドルの祭典に優勝したものの、そのまま全国区のトップアイドルに駆け上がれるほど業界は甘くなく、基本的にまだ仙台で地道な活動をしているというのは、序盤設定としては違和感ない。久しぶりに出演するという全国放送の歌番組で歌った曲も、初期代表作で、一度東京進出した際にメジャーレーベルから出していた「7 Girls War」だ。いまだ一般的にはそれが最も知名度が高いというわけで、彼女たちが一つのヒット曲を歌い続けている演歌歌手と近しい状況だというのが読み取れる。

 とはいえ、地元仙台では冠番組も持ち、前作と比べてメンバー同士の仲も安定感が出ている。夏夜と未夕は、前作ではツッコミとボケコンビではあったものの、二人でふざけあって遊ぶというシーンはなかった。しかし今回は実波も加わった三人で投稿動画にアテレコして遊んでおり、メンバー間の距離が縮まったんだなと実感させられる。また藍里が失敗して落ち込んでいるときも、ちゃんと注意しつつもみんなで励まし、菜々美が「ま、それならいいんじゃない。結果オーライってことで。」と笑顔で言っているところなど、随分成長したなと思わせるシーンだった。個人的にはリアルWUGをずっと見続けてきて、彼女たちの仲や信頼関係が年々深まっていることを実感していたので、キャラクターたちの変化もまた、違和感なく受け入れられた。

 あと、I-1 Clubのセンター萌歌がWUGに対して冷たく、敵対心を持っていることも、自分がセンターになって最初のアイドルの祭典で負けていることを思えば、人一倍ライバル心を抱いていたとしても不思議ではない。そういった人間関係の構図を、ざっと分かりやすく描いていたという意味で、ストーリーとして特別なインパクトはないものの、前作との繋ぎに違和感はなく、導入の説明として無難な第1話だったといえるだろう。

 前作では散々叩かれた作画については、ところどころカロリー抑えた簡略さはあるものの(新幹線のシーンは笑ったが)、特にバランスが崩れたような場面はなく、一先ず及第点ってところではないだろうか。今後もこの調子で適度に手抜きはしつつ、人物描写は最後まで上手くやっていってほしいものだ。

 そして最後にライブシーンについて。前作は手書きにこだわったものの、制作スケジュールが破綻していたためか、テレビ放映時の第10話など目も当てられない惨状だった(あのときの絵コンテが今作の監督で、本人にも思うところはあるかもしれないが)。しかし新章では昨今のアイドルアニメに倣いフルCGに切り替え、動きもリアルWUG自身のダンスをモーションキャプチャーしたため、それ自体はとてもリアルに出来ている。表情がCGで多少変わってしまうのは、技術的に諦めざるをえない範囲だろう。しかしCGの長所をやたら活かそうとしたためか、とにかくカメラがぐるんぐるん動きすぎだ。結果として一人ひとりの動きが掴みづらくなっている。リアルWUGのライブを何度も見てきた立場からすると、折角モーションキャプチャーしたのだから、それぞれのクセが発見できるような見せ方をしてくれたらよかった。もちろんアングルやカットはいろいろ切り替えてくれていいのだが、手足の動きや表情、メンバー同士のアイコンタクトなどが素人目にも「おっ」と気づくような演出だったら嬉しいなと。初回だけにインパクトつけた演出にしたのかもしれないが、今後はもうちょっと落ち着いたものにしてほしいものだ。

 本格的なストーリー展開は次回から始まるということで、少しの不安を持ちつつ期待して待ちたい。

3年の思いを込め原点を演ずる7人 − 舞台「Wake Up, Girls! 青葉の記録」を観劇して

 1月19日〜22日、舞台「Wake Up, Girls! 青葉の記録」がAiiA 2.5Theater Tokyoにて公演された。私は21日(土)昼公演を一般席(15列目)、及び夜公演をプレミアム席(6列目)にて2回観劇してきた。

 ストーリーは最初の劇場映画『Wake Up, Girls! 七人のアイドル』を再現したものだが、オーディション風景だけを描いた特典映像の『Wake Up, Girls! - 出逢いの記録』や、TVシリーズを見てから知るような場面も組み込まれている。特に後者については、ライバルアイドルチーム「I-1 Club」をWUGのストーリーと並行して描くことで、本編の主人公である「島田真夢」が抱える過去が、『七人のアイドル』の時点でも見えてくる形になっている。基本的にはWUGのストーリーを全て把握しているワグナーたち向けの脚本だが、初見の人にとっても「一つの物語の始まりとして、少女たちが立ち上がる姿を描いたもの」として楽しめるものだったのではないだろうか。

 WUG7人の配役は、この作品から声優としてデビューしたリアルWUGの7人。もともと「ハイパーリンク」というキャッチフレーズの下、アニメの作品内同様に、ド新人が集まったユニットとしてリアル声優7人がアイドル活動していることにWUGの特性があったが、この舞台は彼女たち自身が声だけでなくリアルな役者として、所謂「2.5次元」の世界を演じる特別なものとなっていた。

 大抵二次元作品の三次元化はアニヲタたちから嫌われる傾向にあるものだが、WUGに限っては二次元と三次元が最初からリンクしているため、ファンであるワグナーたちには告知当初から歓迎されていた。それだけに演じるリアルWUG7人は、大きなプレッシャーを感じていたことだろう。殆どのメンバーは、舞台経験すらなかったのだ。

 しかし彼女たちの演技は素晴らしかった。それはきっと、3年間自分とともにいたキャラクターへの積み重ねた思いが、このステージ上の演技に注ぎ込まれていたからだろう。そして私だけでなく、きっと多くのワグナーたちも、その彼女たちの思いを見つめ続けてきたからこそ、恐らく他の舞台では味わえない感動で胸が一杯になったことだと思う。

 島田真夢が自ら閉ざしていた扉を開いてWUGの中へ飛び込んだシーンの後、この舞台ではアニメの中にはなかった場面が挿入される。社長が失踪し活動継続の是非が問われている中、島田真夢の加入によって一度はやる気を取り戻したものの、1ヶ月経ってもやはりライブの予定が立たず、七瀬佳乃、久海菜々美は具体的な目標がない現状に苛立ちを募らせる。そして佳乃はつぶやく。

 「あのときスッパリやめておけばよかった。……結局自分は何をやっても上手くいかない。もう夢なんて見れない……。」

 2015年暮れ、続劇場版後篇が公開され、アニメ作品としての一区切りがついてしまった時に開催された幕張のWUGフェスで、吉岡茉祐は「まだWUGを終わらせたくない!」と泣きながら叫んだ。リアルWUGの7人も具体的な目標をこの時失っていたのだ。それでも翌2016年、「今度は私たちが作品を引っ張っていく番だ。」とメンバーたちは口々に語り、作品への誇りとキャラクターへの愛情を持ってそれぞれの活動に臨み、7人揃ったときには「WUGここにあり」とばかりに、初見の観衆をも惹きつけるパフォーマンスを演じた。3rdツアー初日に「私の役目は他からファンを連れてきて、WUGを大きくしていくことです!」と宣言した山下七海の凄みは今でも忘れられない。それでも16年暮れの幕張では、みなが「今年は不安で一杯だった。」と本音を漏らしていた。去年は本当に苦しみの中、頑張った1年だったのだと思う。

 脚本の待田堂子は、デビュー当時からの彼女たちをずっと見ていたからこそ、この新たなシーンを挿入したのかもしれない。挫けそうになる佳乃に真夢は、今まで逃げてきた自分だからこそ「もう諦めたくない」という思いを伝える。そして「行き詰まった時に歌う歌」としてTwinkleから教えてもらったという『ゆき模様 恋のもよう』を、7人がアカペラで歌うのだ。普段こういった作品を見ても涙を流すことがない私でさえ、このときばかりは目頭が熱くなるのを抑えられなかった。

 そう、この舞台の上にいたのは、島田真夢を演じる吉岡茉祐ではなく、島田真夢であると同時に吉岡茉祐であり、林田藍里であると同時に永野愛理、片山実波であると同時に田中美海、七瀬佳乃であると同時に青山吉能、久海菜々美であると同時に山下七海、菊間夏夜であると同時に奥野香耶、そして岡本未夕であると同時に高木美佑だったのである。これほどの「ハイパーリンク」があるものだろうか……。

 雪降る演出の中で、バラバラの制服を着て『タチアガレ!』を歌い踊るラストシーン。劇中のライブシーンではコールと手拍子はOKということになっていたが、それをする観客は僅かであった。今、道なき道へと向かいタチアガッた7人。そして3年の思いを込めて新たな道へと踏み出そうとする7人。私たちはきっと、そんな彼女たちを胸に刻みこむように、じっと見つめることしか出来なかったのだ。

 さてこの舞台では、WUG7人以外のキャラクターも、三次元の姿で登場する。しかし岩崎志保役の大坪由佳を除き、全員アニメ声優とは別のキャスティングだ。だがなんということか、全く違和感を覚えないのだ。特に松田耕平役の一内侑の演技は、アニメの松田以上にWUG7人とともにいると感じさせる松田だった。社長も『七人のアイドル』の作中としてはアニメ以上に愛すべきキャラで、演じた田中良子はシリーズを通した丹下社長をしっかり汲み取ってくれていたのだろう。

 狂言回しを演じた大田組の3人も、ワグナー側に立ってとても楽しませてくれた。大田がアニメキャラそのままで、見ていたワグナーみんな納得だろう。

 そしてI-1Clubのメンバーである。実はアニメでは、メイン7人揃ったI-1Clubとしての印象に欠けるところがあった。しかし舞台では7人がみなトップアイドルとして輝き、レッスン風景での掛け合いで各々の個性が感じられ、アニメ以上にキャラクターとしての存在感が溢れていた。素直に「この7人も応援したい」と思わせてくれたのである。加えてキャスト陣がみなツイッターアカウントを持っていて、レッスン中や本番舞台裏の様子をツイートしてくれていたので、彼女たちもまたWUGという作品を愛し、舞台で演じることを心から楽しんでいることを感じられたのが嬉しかった。是非またこの7人が歌い踊る『Knock out』を見てみたい。

 文中は敬称略してしまったが、舞台を支えてくれた裏方の皆さん含め、心から敬意をもって感謝したい。

 心の奥深くまで沁み入る素敵な舞台をありがとう。本当にありがとう。

<追記>

 終演後に書かれたI-1Clubを演じた方々の言葉が嬉しい。舞台はWUGの物語だけど、同時にリアルなI-1の物語もここにはあったんだなと。ブログ記事にはそのリンクを、ツイッターでつぶやいてくれた方には終演後ツイートのリンクを以下に紹介します。心より感謝。

 ◆吉川愛役 岩田華怜さん
  タチアガレ

 ◆近藤麻衣役 小山梨奈さん
  Wake Up, Girls! 青葉の記録 ありがとうございました!

 ◆相沢菜野花役 水原ゆきさん
  『Wake Up, Girls!〜青葉の記録〜』終演①
  『Wake Up, Girls!青葉の記録  終演②』
  『Wake Up, Girls!青葉の記録  終演 ラスト』

 ◆鈴木萌歌役 山下夏生さん
  ※このリンク先ツイートに画像での長文記事あり

 以下お二人はまとまった記事を書かれてないが、ツイートでいろいろつぶやいてくれてました。

 ◆鈴木玲奈役 立花玲奈さん →終演後ツイート
 ◆小早川ティナ役 日下部美愛さん →終演後ツイート

3年目の正念場 − Wake Up, Girls! 3rdライブツアー開幕&舞台化発表

 2ndライブツアー以来のご無沙汰です。今でもしっかりワグナーやってますよ。

 さて、一昨日7月17日よりWake Up, Girls! 3rdライブツアーが、千葉・舞浜アンフィシアターを皮切りにスタートした。今年は千葉から大阪、新潟、仙台、沖縄、福岡、最後に東京・Zepp DiverCityと、全7ヶ所昼夜合計14公演という、なかなか野心的でハードなスケジュールとなっている。自分は諸々の事情で、今年は最初の舞浜と最後のZeppしか行けないのだけど、とにかく彼女たちを応援する気持ちは変わらない。

 ライブの感想を書く前に、少しこの1年のWUGを振り返ってみたい。

 チャレンジングで熱い2ndライブツアーは、劇場版アニメへと繋がる布石でもあった。9月と12月に前後編として公開された劇場版は、奇をてらったものではなく、プロットとしては王道で、それ自体は悪くないものだった。しかし約50分を2本、テレビ放映の4話分に収めるには詰め込み過ぎで、いきなりダイジェスト版を見せられた気分であり(特に後篇)、相変わらずもったいない出来の作品になってしまった。

 それでも一つの区切りを迎えたアニメ作品を締める形で開催された12月の幕張イベント。これにも参加してきたが、ライブは素晴らしかったものの、中盤の野球コーナーでダラダラと1時間も費やしてしまい、非常に間延びしてしまったのが残念すぎた。一昨年の幕張イベントは評判がよく、ブルーレイにもなったが、昨年のはどうやらお蔵入りしそうである。

 という感じで、作品絡みのキャンペーンは今一つの効果で終わってしまったのではないかと思う。もちろん実態は分からないが。

 しかしそんな中、「今度は自分たちが作品を引っ張っていく番だ」と、三次元のWUGメンバーたちが意気込みを新たにしている。それは単にあちこちで作品の宣伝をするということではなく、各自が新たな作品やイベントに関わっていく中で、しっかり自分たちの存在をアピールし、多くの人たちに知ってもらうことで、結果としてWUGにも興味を持ってもらおうと頑張っているのだ。

 3月のソロイベも、ななみん、よっぴー、あいちゃん、かやたん、まゆしぃの回に参加。昨年のソロイベのときよりも自信を持って自己アピール出来ており、みんな本当に頼もしくなってきている。

 そうして迎えた3rdライブツアーである。今回はホムラジであいちゃんを知ったというアイマスPを一人連れていくことが出来た。これもあいちゃんをはじめ、メンバー一人ひとりが自分の個性を活かし活躍しているからこそだ。

 オープニングはまさかの「Beyond the Bottom」から。最初からクライマックス感で、会場はみんな緑を主に、色付きライトを用意してたので、慌てて白に変更。そこから「少女交響曲」「素顔でKISS ME」と、昨年の劇場版の曲を連続で披露。もったいつけてない感じで、ぐいぐい攻めてきた。

 そして挨拶MCを挟んでの新曲。一発目は7人全員で歌う「HIGAWARI PRINCESS」。今回7ヶ所を巡るツアーでは「プリンセスシステム」という会場毎の当番制を採っており、この曲のセンターも会場毎に替わるということで、この舞浜ではみゅーちゃんが担当した。可愛らしい曲で、去年の「地下鉄ラビリンス」みたいにライブで見て楽しいタイプだ。

 続いてあいちゃん、みゅーちゃん、みにゃみの三人ユニットによる「タイトロープ ラナウェイ」。当人たちも言っていたとおり、おふざけ衆にもかかわらず聴かせるタイプの曲。そしてまゆしぃ、よっぴー、ななみん、かやたん四人による「outlander rhapsody」。こちらも少年たちの冒険を表した感じの、WUGとしては新しいタイプの曲として聴かせてきた。初回でワグナーの反応も決まっていないが、「プラチナ・サンライズ」のように間奏以外はコールなしがいいなと感じさせる2曲だ。

 そこからこの舞浜公演のプリンセス、みゅーちゃんの出番である。お馴染みのキャラソン「WOO YEAH!」で盛り上げた後、新曲の「It’s amazing show time」は、これまでライブで積み重ねてきた思いを振り返りながら語りかけるように優しく歌い上げる。そこにはアニメの岡本未夕もリアルの高木美佑も同時にいて、この天真爛漫の笑顔にも成長の跡がしっかり見えて、とてもしみじみとした気持ちに満たされた。本当にどんどん素敵になってるんだよね、みゅーちゃんは。

 ここで意外に早めの物販映像が流れた後、衣装替えしてI-1 Clubの「止まらない未来」と「運命の女神」。更に昼はまゆしぃ、みにゃみ、ななみん、みゅーちゃんによる「リトル・チャレンジャー」、夜はよっぴー、あいちゃん、ななみん、みゅーちゃんによる「レザレクション」と続いた。WUGをユニットとして見た場合、持ち歌が増えてきた今、I-1の曲を歌うことには微妙に感じるところはある。しかし後で触れるが、このライブはやはり作品としてのWUGが前提としてあり、外すことは出来なかったのだろう。曲はよいので、ライブとして盛り上がる分には異存なく、「レザレクション」など本来は1+3構成のところを、4人構成に組み直して、ちゃんと全員に見せ場のあるパフォーマンスに仕上げてきていた。

 さて、ここで再び衣装替えのために、スクリーンにはアニメの映像が流れる。アニメ全編をダイジェストとして構成された映像は、過去へと遡る形で観衆を思い出へと誘い、まだユニットが生まれる前のオーディションの場面まで導いていく。後から気づいたことだが、実はこれがこのライブの無言の設定になっているのだ。

 映像が消えて暗転し、衣装替えしてステージに現れたWUGちゃんたちは、「Beyond the Bottom」の衣装を身に纏っていた。冒頭に歌った曲をまた歌うのかと一瞬戸惑ったところで流れてきたのは、「言の葉 青葉」のイントロだ。初期の思い出を噛みしめるように歌う彼女たちと、それを聞き入るワグナーたち。続いて同じく初期の拙さと初々しさが染みこんだ「16歳のアガペー」。今これを歌うWUGちゃんたちには、もちろんもうあの頃のような拙さはなく、この曲の初々しさも含めて、しっかり自分たちのものにしている。そして本編最後のMCの後、「私たちの始まりの曲」、夜公演では「初心を忘れずに」といったまゆしぃの言葉とともに「タチアガレ!」。もはやワグナーにとっても体に染みこんでいるこの曲で会場は一体となり、公演本編を締める。

 ここで改めて最後の衣装について触れたい。何故「Beyond the Bottom」の衣装だったのか。夜公演が終わった後も、自分の中ではこれが違和感となって引っ掛かってたのだが、他のワグナーたちの感想ツイートを眺めていたら、なるほどと納得する言及があった。このライブの影のコンセプトは、3年目のWUGちゃんたちによる、これまでの歩みの振り返りなのである。アニメ作品としては最後の衣装であるBtBの白い衣装で、今ここまで歩んできた思いを込めて、初期の3曲を歌っていたのだ。過去へと遡るアニメ映像はその流れを演出しており、冒頭が「Beyond the Bottom」だったことにも、その意図があった。ライブを作品全体の中で構成しているから、当然I-1の曲も外せない。みゅーちゃんの新曲も、3年目の岡本未夕が歌っている。多分この後の公演で披露される各メンバーの新曲も、そのコンセプトに基づいているのだろう。

 お約束の「Wake Up, Girls!」コールで再びステージに現れたWUGちゃんたちは、ラフなライブTシャツに着替えて、最後はお馴染みの「7 Girls War」と「極上スマイル」で、みんな楽しく笑顔でライブを締めた。

 そのアンコール曲の間で昼に発表されたのがWUGの舞台化だ。原案・監督のヤマカン氏が無期限休業と宣言してるせいで、アニメ作品の今後は今のところ完全に白紙状態なのだけど、コンテンツとしてのWUGを終わらせるわけにはいかないという、メンバーとスタッフたちの思いが、舞台という形を導き出したのだろう。キャストは当然メンバー当人たちである。まさに体を張って三次元のWUGちゃんたちが、作品を引っ張っていこうというのだ。大抵アニメの実写化とか舞台化というのは叩かれるものだけど、これについては両手を上げて応援したい。公演は1月でまだ先だけど、絶対に見に行く。

 そしてもう一つこの舞浜公演で強く印象に残ったこと。夜公演のアンコールの合間にななみんのバースデー祝いをしたのだが、そこで語った彼女の今後へ向けた抱負の言葉が強烈だった。

 「私の役目は他からファンを連れてきて、WUGを大きくしていくことです!」

 実際に言った言葉は多少違うかもしれないが、他からファンを連れてきてWUGを大きくすること、それが自分の役目であること、そう明言したのである。ななみんはみにゃみと並んでWUG以外の仕事量も多く、売れっ子若手声優の仲間入りをしてきている。まだ目立った仕事の少ないメンバーやその子らの推しファンからすれば、嫌味にも聞こえかねない際どい言葉だ。しかし自分のホームがWUGであることを自覚し、仲間を信頼しているからこそ、こういう言葉を言えるのだろう。普段はほわほわしたタイプなのに、この時のななみんには凄みすら感じられた。

 全体を振り返って、今回のライブには新鮮さや驚くような挑戦はなかった。新曲も新たな代表曲となるようなインパクトには乏しく、保守的な印象は否めない。影のコンセプトが3年間の振り返りであったのだから、それは仕方ないのだろう。しかしだからと言って、つまらなかったわけではない。コンテンツ的に新しいものがない中で、一旦後ろを振り返られるだけの成長がはっきり見え、今出せる最大限のパフォーマンスで会場を盛り上げてくれた。もちろん舞浜はツアー初日で、去年同様ステージを重ねる毎にブラッシュアップしてくることだろう。ただ2nd初日ほどの不安定感はなく、彼女たちの自信の度合いが今年は違う。

 3年目のWUGは、明らかに正念場に立っている。だからこの3rdライブツアーは、一見保守的であっても、それは守りに入っているためではなく、道なき道へ踏み出すための決意表明のステージなんだと捉えたい。

 ツアーの途中を追えないのは残念だが、最終のZepp DiverCityでグッと踏み出す彼女たちの姿を、もう一度確認したいと思う。