新たな一歩を踏み出した7人 − Wake Up, Girls! 2nd Live Tour 舞浜アンフィシアター公演

 7月20日大阪公演より始まったWake Up, Girls! 2nd Live Tour。8月1日に福岡公演を挟み、8月8日、最大キャパの舞浜アンフィシアター公演が開催された。私は昼夜公演共に参加し、昼はCブロック後方中央、夜はAブロック前方という良席で見ることが出来た。昼の席はステージほぼ真正面で、比較的距離が近かっただけでなく、全体の動きもきちんと見え、演出意図をそのまま受け取ることが出来るポジション。夜はステージ側面からになるが、とにかくメンバーの表情を目の前に見ることが出来て、実にテンションが上がった。側面だからこそ見えてくるダンスフォーメーションの妙味もあり、昼夜共にWUGライブの魅力を心から堪能させてもらった。また、前回大阪公演のブログ記事では問題点も指摘し、彼女たちは舞浜までにブラッシュアップしてくると書いたが、その期待にも見事応えてくれた舞浜公演だった。

 正直に書いてしまおう。大阪公演で喉の調子が今一つに思えたメンバーというのはよっぴー(青山吉能)だ。実は大阪と福岡との間に行われたワンホビでのミニライヴでも、よっぴーは声の伸びを欠いている。
 ワンホビの声を聞いてみると、喉の調子が悪いというより、歌い方、声の出し方が上手くいっていない印象だ。よっぴーは高校時代合唱部にいて、コーラスでの歌い方を意識している気配がする。WUGに入ってからは、もちろんポップスのボイストレーニングを徹底的に受けているはずで、これまではそれで声は出ていたのだけど、彼女なりのこだわりで模索し始めたのだろう。しかしその答えを出せぬままに本番がスタートしてしまったようだ。

 だが、歌にこだわりのあるよっぴーはそのままでは終わらなかった。舞浜で見事に乗り越えてきたのである。今までは声が出ていたとはいっても、どこか壁があって、声の伸び幅に限界があり、大阪、ワンホビでは合唱の声楽を意識してその壁を突破しようとしたが、逆にエンストを起こしてしまった感じだった。しかし舞浜ではきちんと喉が開いた声が出ており、きれいで且つ力強く壁を突き抜け伸びてきたのだ。素晴らしかった。と同時に「よし!よっぴーの歌唱力はまだまだ伸びるぞ!」と確信したのである。なんか偉そうに書いてるけど、一応私も若いころ市民コーラスで歌っており、ポップス系のボイストレーニングも受けたことがあるので、地区大会レベルの高校球児がプロの若手選手を評するくらいには間違いないw

 さて、前回はネタバレを避けてセットリストには触れなかったが、中里キリ氏の大阪公演レポートわぐそくで公表されたため、今回は遠慮なくライブ全体の感想を書いていく。

 前回の記事では、今回のセトリは「チャレンジングな内容」だと書いたが、それはまず冒頭から、ファンにとっては分かりやすい形で登場する。1曲目「7 Girls War」、そして間髪入れずに2曲目「極上スマイル」でステージをスタートするのである。この2曲、数少ないWUGの持ち歌の中で、最もアップテンポでダンスの動きも激しく、とにかく体力を消耗するのだ。もちろん冒頭から盛り上げるには打ってつけの選曲である。しかしこれを冒頭から連続で持ってこられたことが、何より彼女たちの体力的成長なのだ。あと、せり上がりで7人並んでの登場というのは、舞浜アンフィシアターならではの演出でとても盛り上がった。個人的には特に夜公演で一番端のみゅーちゃん(高木美佑)と目が合うんじゃないかという席だったから、めちゃ高まったw

 そして一旦TVアニメ最終話の映像を流し、新たな物語のスタートして新曲「素顔でKISS ME」を披露。

 前回も書いたとおり、これはこれまでのWUGにはないクールな曲で、大人の雰囲気もレパートリーに入れてきた。9月に公開される続・劇場版の劇中歌としても使われるようだが、作中でどんな位置づけになるのかも楽しみだ。

 続いて今回最も「チャレンジングな内容」といえるのが、更なる新曲3曲の発表。続・劇場版で使われる2曲の披露はツアーが始まる段階で予想の範囲内だったが、まさかアニメ作品とは全く関係のない、ライブ用の新曲を3曲も引っさげてくるとは本当に驚きだった。しかもそのうち2曲はユニットを分けたのだ。これまで7人全員か個人のキャラソンしかなかったのを、5人と2人に分けたのである。今まではどうしてもアニメとのリンクが良くも悪くも枷となり、スピンオフの「うぇいくあっぷがーるZOO!」主題歌「ワグ・ズーズー」を除き、結局約1年半新曲を出せない原因ともなっていた。しかしこれで三次元WUGは二次元作品とはパラレルに、自由にユニットの組み合わせも替えながら、新たな展開をしていくことが可能になったのだ。

 その新曲1曲目は7人全員で歌う「地下鉄ラビリンス」。キュートでコミカルさもある、今どきアイドルっぽい曲で、注目すべきはあいちゃん(永野愛理)が振り付けを考案したということである。アニメでは最もダンスが出来ない林田あいちゃんだが、リアルでは永野あいちゃんがメンバー中最もダンス経験が長くて、メンバー一人一人の個性と可愛らしさを存分にアピールしたダンスパフォーマンスに仕上げている。リーダー、センター役は他のメンバーではあるが、実はWUGの精神的要は、みんなのおねえさん的存在であるあいちゃん。この曲のパフォーマンスはそんな彼女だからこそ出来た作品であり、見えている以上にあいちゃんのパーソナリティに裏付けされた楽曲といえるだろう。

 2曲目の「セブンティーン・クライシス」は、みゅー、あいちゃん、まゆしぃ(吉岡茉祐)、ななみん(山下七海)、かやたん(奥野香耶)の5人ユニット。明るくテンポの良いダンサブルなナンバーで、この曲のセンターはみゅー。みゅーはアニメ作中ではメンバーの中でもやや脇役ポジションで、リアルでは最年少であり、あまり自分からグイグイ前に出ていくタイプでもないから、どうしても今一つ目立たないところがあった。しかし今回のツアーでグッと成長を感じたのは、先述のよっぴーとみゅーちゃんである。元々メンバー中一番背が高く、バレエの経験もあるため、ダンスに関してはキレのあるカッコよさのあいちゃんに対し、美しさのみゅーちゃんという印象があった。そしてこの曲でセンターというポジションを得たことで、優雅で且つダイナミックな彼女のダンスが一際冴え、加えてパフォーマンスを演じることに喜び溢れる彼女の無邪気な笑顔がとてもキュートで、見ていて本当に幸せになれる。もちろん他の4人とも息ピッタリで、アイドルユニットの王道を行く曲となっている。

 そして3曲目は、よっぴーとみにゃみ(田中美海)、現在のわぐラジパーソナリティ「もやしとごぼう」の2人によるデュエット曲「プラチナサンライズ」。この2人、メンバーの中では最もおちゃらけたタイプなのだが、曲は一転、ハーモニーをじっくり聞かせるものになっている。だから2人が煽る間奏部分を除いて、観客は皆、基本的にコールを入れない。みにゃみは私が感じる限り、メンバー中最も安定したエンターテイナーだ。明るい声質でブレのない歌声を響かせ、それでいてしっかりクールな雰囲気も醸し出している。そしてよっぴー。感情を目一杯乗せ、とにかく聞かせにかかっている。特に昼公演で披露したロングトーン。これをやりたかったんだろうねw 観客からも思わず「うおぉ!」って声があがった。やや硬質なよっぴーの声に、軽量で安定したみにゃみの声が重なって、素敵なーハーモニーとなったいい曲である。

 この3曲は、ライブだけでなく、是非とも早くCD化してもらいたいものだ。

 この後は一人ひとりのキャラソンメドレー。順番は以下のとおり。

 ハジマル(まゆしぃ)
 可笑しの国(あいちゃん)
 WOO YEAH(みゅー)
 スキキライナイト(かやたん)
 オオカミとピアノ(ななみん)
 ステラドライブ(よっぴー)
 歌と魚とハダシとわたし(みにゃみ)

 ここまで個別に触れてない3人についてコメントしておこう。

 トップバッターのまゆしぃ。キャラソンについてではなく別視点から話をすると、まゆしぃというのは役者なんだなと常々感じる。歌の中の人物に入っていくのである。またエンターテイナーとしてもしっかり演じていこうとする。その分アドリブがちょい苦手なんだが。しかし誰よりもステージ全体をきちんと作り上げていこうという意思がはっきり見えるから、やっぱり彼女はセンターなんだよね。上でリンクした中里キリ氏のレポートで触れられてるが、「ハジマル」という曲をつかむまでかなり苦労してきたという。「島田真夢」というキャラとの関係性の中で曲を理解し表現することに人一倍取り組んでいたのだろう。だからこそ歌を通じて彼女が投げかけてくるものを、ファンとしてはしっかり受け止めて彼女に向けて投げ返すようにコールしてあげたいなと思っている。

 役者という意味では、かやたんもそうだ。彼女も、キャラソンに限らず、歌の中の人物になりきるように歌い踊っている。もっとも、彼女は皆に見られることで役者になりきっていくので、ソロの時は特に皆を煽る。かやたんはメンバー最年長ではあるけど、メンバーが揃っている中では決して自己主張やリーダーシップを出すタイプではなく、一見目立たない。しかし一旦自分に注目が集まれば、途端に本領を発揮し皆を惹きつけていく。今回の公演でも、彼女のそういった媚薬のような魅力に磨きがかかったように感じた。

 一方ななみんは、もう天性のアイドルなのだろう。天然なのか計算ずくなのか、あの大きな瞳と笑顔で確実にファンのツボを突き、骨抜きにしていくのである。ワグナーの中でも、かやたん推しとななみん推しは重患率が高いと思われる。真骨頂は今回よりも3月のソロイベの時だったと思うが(私はチケットが外れたのでニコ生で視聴)、今回舞台に近かった夜公演では、彼女がとにかくよく客席に視線を送ってくるのが分かった。もちろん他のメンバーもやってるのだけど、あの少しいたずらっぽさも混じった笑顔はヤバイね。ななみん推しが夢中になるのもよく分かる(斯く言う私は徹底して箱推し。7人全員がそれぞれ可愛すぎて困る。)。因みに会場ロビーでは、かつてななみんがニコ生のグッズ化プロジェクトで天然を炸裂させ、今年のエイプリルフールでネタとして実現された「等身大お弁当箱」が展示されていた。

 キャラソンメドレーの後は、I-1clubのナンバー。これまでも持ち歌が少ない中でアニメ劇中ライバルのI-1の曲は歌ってきたのだが、今まではWUGとして歌わせてもらっていたのに対し、今回は衣装もキャラ設定もなりきっての登場。元I-1メンバーだったまゆしぃの島田真夢役はそのままに、残るメンバーはI-2、I-3として自由にキャラ設定をした自己紹介で、バラエティー色を出した演出で楽しませる(個人的にはみゅーちゃんのコロスケと、針を振り切った不思議ちゃんキャラのあいちゃんがツボだった。)

 曲は、昼の1曲目が「シャツとブラウス」、夜は「ジェラ」で、2曲目は共通して「リトルチャレンジャー」。衣装も赤く揃えたことで、この瞬間だけはI-1clubのステージになりきるものの、既に歌い込んできていることもあり、これらももうWUGちゃんたちの曲にもなってるんだなとしみじみ感じた。特に「リトルチャレンジャー」はまゆしぃの曲でもある。まゆしぃのソロパートは、実はどの曲よりも島田真夢と吉岡茉祐がシンクロしているのではないだろうか。

 この後一旦衣装替えの時間も兼ねた物販紹介ビデオが流れる。大阪と舞浜では映像に登場するメンバーが異なり、舞浜の昼と夜でも一部映像が差し替わっているので、おふざけ満載のバラエティーにもなっており、いずれライヴBD化の際には特典映像として入れてくれると嬉しい。そういう意味では、開演前に流れたみにゃみの「お約束体操」(いわゆるマナー啓蒙ビデオ)やまゆしぃ書き下ろしの影ナレも全会場分是非お願いしたい。

 さて、ここでついに今回ツアーの一番の目玉ともいえる続・劇場版前篇「Wake Up, Girls! 青春の影」主題歌「少女交響曲」。まずスクリーンに続・劇場版の一部場面が流され、劇中音楽プロデューサー早坂が「ほら、くれてやるよ。」といって音楽データと思しきものをスマホでWUGメンバーにピッと送信すると、暗転してミリタリーグリーンの新衣装に着替えたリアルWUGメンバーが登場。大阪で初披露された時は、なかなかの粋な演出で、会場のテンションが一気に高まった。今回舞浜では既にワンホビのステージがネットを通じて披露されたせいもあって、観客側もバッチリ合わせていくぞという雰囲気で高まる。斯く言う私もかなり聴き込んで行った。ツアーを追いかけるというのは初めてしているのだけど、その醍醐味というのは、ステージ上の演者だけでなく、ファンもステージ毎にブラッシュアップされていくところなのだろう。

 当然WUGちゃんたちも完成度を高めてきた。大阪ではまだ少し緊張感があったように感じられたが、ワンホビ、福岡を経てパフォーマンスに自信が付いてきたのだろう。会場の雰囲気も後押ししているのかもしれない。この曲はまゆしぃとよっぴーだけでなく、みにゃみとななみんの見せ場も加わっている。明るい声質の2人が歌いながら手を取り合い輪を作り、その中を残る5人がくぐり抜けて最後のサビに突入していくところは、彼女たちが新たな扉を開き次のステージへ駆け上がっていくイメージに繋がる。一歩一歩階段を登っていくWUGらしさが滲み出ていて、なんというか胸に来るものがある。彼女たちを代表する1曲になることは間違いない。

 曲が終わったところで告知コーナー。舞浜での新規情報としては、続・劇場版の新規PVが公開された。

 その他、聖地・仙台巡りのアプリI-1clubの新曲など、コンテンツとしてのWUGにも改めて力が入っている。

 そして本プログラムラストは「16歳のアガペー」。初期のWUGの初々しさを再確認する安心さで一旦の締めとなる。

 この後はWUGライヴの様式美ともなっている「Wake Up, Girls!」コールのアンコール。最早本来のアンコールという概念はなく、これも含めてセットリストのうちなのだが、これを楽しむのもWUGライヴということでいいだろう。

 それゆえその後の演出も仕込まれており、特にこの舞浜公演では、まずスクリーンに「ペンライトを消してください」とのメッセージが表示される。暗転するとアンフィシアター特有の半円状に客席側へせり出したステージに七色のスポットライトが照らされ、それぞれの光の下に7人が登場、「言の葉 青葉」のメロディーが流れ出す。そしてしっとりと切なく優しいバラードにプロジェクション・マッピングの美しい光の演出が合わさって、会場はとても幻想的な雰囲気に満たされた。実は昼も夜も「言の葉 青葉」のときは、ボーっとこれまでの彼女たちのことを思い返していたり、あるいはこの歌の背景にある震災のことを考えたりしてしいて、終わってみると歌をちゃんと聞いておらず、ステージ上もきちんと意識して見てなくて、「あ、しまった……」となってしまった。でもまあ、それもよいのかもしれない。

 次に一転、明るく楽しい「ワグ・ズーズー」。これは曲の前に観客全員で振り付けの練習。夜の部では振り付け指導役でななみんが目の前に来て、幸せを満喫。

 そしてオーラスは、WUGの原点「タチアガレ!」。メンバーもワグナーも体に染み付いている曲だ。会場は出し惜しみない一体感に包まれ、最高の満足感をもってライヴを終了したのであった。

 WUGメンバーは、インタビューやブログ、ラジオ等で、よく自ら「成長」という言葉を使う。実は、私個人的にはちょっとこれが苦手で、自分で自分のことを「成長している」と表現することにやや抵抗感がある。ある程度分かりやすい指標がある技量に関し、その指標に到達したことを指して自ら「成長した」というのはまだよい(もっともその場合「上達」という表現のほうがマッチするが)。しかし精神力、経験値などが増したことを自ら「成長」と呼ぶと、どこか慢心に陥りそうで、「成長」とは他者から見てそう判断する言葉なのではないかと、飽くまで私個人は思っている。

 しかし彼女たちにとっては、この「成長」という言葉は、自分たちを磨き上げていくための一つの秤になっているのだろう。新たな技量を身につけた時、新たな何かを発見した時、また何かを達成した時、それを自らの証として「成長」という言葉に置き換える。そしてそれは他者から見た時、確かに彼女たちの「成長」の証なのである。

 今回のツアーでも、彼女たちの確かな成長が感じられ、そしてツアー中にもステージ毎に磨きがかかっているのが分かった。WUGはいつだって「成長中」なのである。そして今回は何より、多くの新たなチャレンジが試みられた。このツアーはこれまでの彼女たちの集大成ではなく、新たな一歩を踏み出したステージなのである。もちろんまだ来週の仙台公演が残っている。最後までこの新たなスタートを楽しみたいと思う。